益子博之のニューヨーク放浪記 2010年6月編 vol.03
wandering & wondering in upper east side - part 3
Todd Sickafoose's TINY RESISTOR
Alan Ferber - trombone; John Ellis - tenor sax; Jonathan Goldberger - electric guitar; Mike Gamble - electric guitar; Todd Sickafoose - bass; Ches Smith - drums.
クリプトグラモフォンからリーダー作を出しているリーダーのトッド・シッカフース本人は西海岸で活動しているようだが、他のバンド・メンバーは皆ニューヨーク・シーンの人間ばかりだ。リフ一発や簡単なコード進行をベースにややレイド・バックしたスワンプ・ロック風味も少し混ざったテイスト。ツイン・ギターの一角、マイク・ギャンブルと、最近の活躍が目立ってきたドラマー、チェス・スミスに注目していたのだが、二人がバンドの中核を成していることは明らかだった。もう一人のギタリスト、ジョナサン・ゴールドバーガーも以前見たときよりもさり気ない自己主張と果たすべき役割を両立させる術を見に付けてきたように感じられた。
と、見る間に薄暗い雲が広がり、やがてポツポツと雨が降り始めた。これでもう中止かと思いきや、雨脚はすぐに途絶えた。終演後、既発CDを見てみたら、マイク・ギャンブル以外は西海岸シーンのミュージシャン達ばかりだったので購入は止めておく。次は、ポルトガルのレーベル、クリーン・フィードからの諸作で注目株になりつつあるハリス・アイゼンスタット率いるグループの登場だ。時間が押している上、天候不順もあるのでセット・チェンジを急かされているようだ。
4:15 at Red Hook Jazz Festival 2010 :
Harris Eisenstadt's CANADA DAY
Nate Wooley - trumpet; Matt Bauder - tenor sax; Chris Dingman - vibraphone; Eivind Opsvik - bass; Harris Eisenstadt - drums.
全体としてはCDで聴いていた通り、現代風ハード・バップといった趣きの演奏なのだが、ヴァイブがハーモニーをつけているためか、感情任せに盛り上がることの無い、ややクールなムードで一貫している。演奏が進むにつれて天気が回復し、再び青空が顔を覗かせて来た。
ずっと日陰にいたのに、腕が結構赤く焼けてしまった。顔も焼けているんだろうな。汗の量も大層なものだったので、これで風邪も吹き飛ばされたかと思ったが、まだうっすら鈍い頭痛は残っている。アイヴィン・オプスヴィークに今回見られるのはこの1回だけなので残念だと伝えて別れる。マンハッタン方面のFトレインは順調で、8時のザ・ストーンまでにはまだ時間があるし、小腹も減ったのでシュガー・カフェに寄る。
途中で前を通ったのだが、トニックの跡地は放置されたままだった。フルーツ添えのフレンチ・トーストを頼むが量が半端ではなく、相当なボリューム感。フレンチ・トーストとは言ってもパンにはあまり味が付いておらず、メープル・シロップを大量に掛けて食べたのだが、意外にあっさり平らげてしまう。それでもまだ、時間があるので付近をのんびり散歩。ノリータのハウストン・ストリート沿いにあった割と好きなブラジル料理店が無くなっており、そこから程近い昨年まで宿泊していた短期滞在型アパートメントの飲食店が入っていた1階部分も大規模な改装の真っ最中だった。
8:00pm at The Stone, corner of Avenue C & East 2nd Street, NYC
Angelica Sanchez/Gustavo Aguilar Duo
Angelica Sanchez - piano; Gustavo Aguilar - percussion.
($10 cover/no drink or food)
まだ客のいない時間に入って行ったので、すぐにアンジーが気付いて軽く挨拶。昨夜のクルヴォアジェは満席に近かったが、結局観客は10人前後で寂しい限り。ほぼ定刻にスタート。アンジーが慎重にゆっくりと鍵盤を押し込んで行くと、グスタヴォ・アグィラーもピアノの内部に手を突っ込んで静かに弦を叩き始める。連弾ならぬピアノの同時演奏がしばらく続いた後、通常のデュオ演奏に移る。
アンジーが断片的な、ブツ切れのようなフレーズを執拗に繰り返しては変奏を加えていくのに対し、アグィラーがパーカッションで反応していく。ジャズや所謂フリー・インプロヴィゼーションではあまり見られないスタイルだが、「オープン・インプロヴィゼーション(開放された即興)」によって新たな自分達の音楽言語を作り出すことを目指しているというマラビー/サンチェス/レイニー・トリオと同様に、アンジーなりの言語生成を目指したものなのだろう。
金曜日のコーネリア・ストリートでの再会を約してすぐに店を出る。まだ9時くらいなので、10時ドア・オープンのル・ポワソン・ルージュにはだいぶ間がある。バワリーのダウンタウン・ミュージック・ギャラリーが元あった場所はファスト・フードのサブウェイに、ブロードウェイのタワー・レコード跡は銀行に、それぞれ変わっている。頭痛はやはり消えない。蒸し暑さもあるが、歩いていると段々身体が重く感じられてくる。こんなにしんどい思いをして、俺は一体何をしているんだろう? 一体何がしたいんだろう? 時間潰しに意味もなくウロウロ歩いているので、尚更そんな気持ちに襲われるのかもしれない。
10時10分前にブリーカー・ストリートに面した店の前に着くと結構な行列が出来ていて焦る。だが、意外にすんなり入れて一安心。この店は初めて。もっと大きい店かと思ってたのだが、コットン・クラブよりも狭いくらいだ。客席のドアを通る時にクン・ヴー(とマイラ・メルフォードは紹介した)と擦れ違う。僕とちょうど同じくらいの身長だ。チキン載せシーザー・サラダを注文。コーヒーは無いのかと尋ねるがアルコールしかないらしい。
10:30pm at Le Poisson Rouge, 158 Bleecker Street, NYC
Myra Melford's BE BREAD
Cuong Vu - trumpet; Ben Goldberg - clarinet; Myra Melford - piano, melodica; Brandon Ross - soprano guitar; Stomu Takeishi- bass guitar; Matt Wilson - drums.
($20 cover/2 items minimum per set)
オリエンタルでややエキゾチックでありながら、どこかしら淡白な印象を受けるテーマ提示に続いて、ソロを回していく。テーマの性格のためか、盛り上がるには盛り上がるが爆発的に盛り上がることは決してない、スケール感はあるドキュメンタリー紀行のような、淡々とした味わいだ。視覚的にだけではなく音楽的にも、スツールに腰掛けて小さなソプラノ・ギターを繊細に爪弾くブランドン・ロスと、体格に比べて大きなアクースティック・ベース・ギターを大きなアクションとともに掻き鳴らす武石 務のコントラストがバンドの中軸を成しているように思われた。1セット1時間半近くの演奏もさほど長くは感じられない。店を出る間際にメルフォードと鉢合わせしたので思わず握手。音楽と写真からは、もっと身体の大きな女性を想像していたのだが、かなり小柄で華奢な雰囲気だった。
乗り換えと、その際の待ち時間を想像すると面倒になってきたので、少々かかるが6トレインのアスター・プレイスまで歩くことにする。鈍い頭痛、重い身体。また気分が滅入ってくる。このメモを書くことも気が重い。明日は、課せられたタスクのために早起きしなければならない。あぁ、俺は一体何をしているんだろう? 一体何がしたいんだろう?


