pick up disc / 注目作クロスレビュー
2009.11.13
Disc Jacket
村井康司の見解
The Core & More Vol.1: The Art of No Return

Moserobie Music Production MMPCD065

1. The Art of No Return part 1 2. The Art of No Return part 2 3. The Art of No Return part 3 4. The Art of No Return part 4

Magnus Broo(tp) Jorgen Mathisen(ts, cl) Jonas Kullhammar(ts) Vidar Johansen(bs, b-cl)Erlend Slettevold(p) Steinar Raknes(b) Espen Aalberg(ds)
recorded at Nasjonal Jazzscene, Oslo on January 13-14, 2009

60~70年代の「熱いジャズ」へのオマージュか?

 まずは基本情報を整理しておこう。
 スウェーデンに「ザ・コア」というバンドがある。メンバーはJorgen Mathisen(sax), Erlend Slettevold(p), Steinar Raknes(b), Espen Aalberg(ds)の4人。あ、すみません、人名をカタカナ表記しないのは、読み方がよく分からないから、です。
 そこに3人の管楽器奏者、すなわちJonas Kullhammar(ts), VIidar Johansen(bs,b-cl), Magnus Broo(tp)を加えたバンドがこの「ザ・コア&モア」で、この『ジ・アート・オブ・ノー・リターン』が最初のアルバムというわけだ。ちなみにJonas Kullhammarは、ザ・コアやこの作品を出しているMoserobie music production のオーナーでもある。
 アルバム・タイトルにして全編を占める組曲のタイトルでもある"THE ART OF NO RETURN"は、 VIidar Johansenが作曲したもの。1953年生まれのJohansenは、北欧のフリー・ジャズ・シーンで長年活躍するベテランだ。

 さて、具体的な音だが、これはもう「70年代前半のモード・ジャズ大作」を現代に蘇らせたもの、と言うのが、もっとも手っ取り早い紹介の仕方だろう。管楽器が4本あるので、テーマやソロのバックのアンサンブルはかなり手が込んでいて、ミニ・オーケストラ的なところもかなりある。ピアノはほとんどマッコイ・タイナー(たとえば『サハラ』の頃の)か! という高速モーダル・サウンドで突進し、ドラムスの勢いのよさやワイルドな爆発ぶりも、マッコイのバンドにいた当時のアル・ムザーンを思わせたりする。
 そしてホーンズのソロは、盛り上がってくると勇猛果敢に「どフリー」の領域に入り込んでいく、という、ストラタ・イーストか君たちは、と言いたくなる猛者ぶり。チャーリー・ヘイデンのリベレーション・ミュージック・オーケストラを想起させるレクイエム的なアンサンブルも出てきたりして、やはり60~70年代の「この手のジャズ」に対するリスペクトというかオマージュというか、を強く感じるのだ。

 全パートを通して聴く方が充実した体験を持てるとは思うんだけど、正直言って何度も何度も通して聴くのは、個人的にはややトゥーマッチ。かと言って1つのパートだけ聴くのもなんとなく間が抜けているし、大作というのはここが困ります。
 ピットインあたりで生で観たらさぞかし盛り上がるだろうなあ、これ。来日してくださいね、来年あたり。

The Core on Disk Union
2009.10.27
Disc Jacket
原田和典の見解
The Core & More Vol.1: The Art of No Return

Moserobie Music Production MMPCD065

1. The Art of No Return part 1 2. The Art of No Return part 2 3. The Art of No Return part 3 4. The Art of No Return part 4

Magnus Broo(tp) Jorgen Mathisen(ts, cl) Jonas Kullhammar(ts) Vidar Johansen(bs, b-cl)Erlend Slettevold(p) Steinar Raknes(b) Espen Aalberg(ds)
recorded at Nasjonal Jazzscene, Oslo on January 13-14, 2009

確かに「ゴツい、熱い、長い」。だが、フレーズの前に
“例によって”とかいうフレーズをつけたくなってしまう

Moserobie Music Productionというレーベル名、ヨナス・クルハマーやマグヌス・ブローという名前。好きだなあ。これだけでぼくは、ゴツいジャズが飛び出してくることを予想できる。

しかも今回は組曲形式である。第4楽章まである。というか、それしかない。1楽章あたりの時間が猛烈に長いであろうことを、ぼくは予想できる。

さっそく盤を再生してみる。なるほど、ゴツい、熱い、長い。3サックスの絡みの高揚感には興奮させられたし、スタイナー・ラクネス(と読むのか?)のベースも、ビンビンと響いてくる。もうしわけないがぼくはしばらく、北欧のベーシストに対して偏ったイメージを持っていた。音程は正確で指もよく動くんだが音色はアンプ増幅でぶよぶよ・・・・というような。だけどこのスタイナーにしろ、インゲブリクト・ホーケル・フラテンにしろ、ペール・サヌッシにしろ、フリップ・アウグストソンにしても、みんなゴツくて分厚い。

初めて聴くのに、何度も聴いたような感じ。たしかにスリリングなんだけど、そのスリルが、飛び出したその時点で既に完了しているというか。偉そうなことを書いて恐縮だが、物事には“オヤ”と思う部分もほしいと、欲張りなぼくは思う。あれ、別のMoserobie作品でもこんなサウンドがあったな、と思える瞬間がかなりあって、「ゴツい、熱い、長い」というフレーズの前に“例によって”とか“いつも通りの”というフレーズをつけたくなってしまった。

そんなことを言ってしまえばプレスティッジやブルーノートの50年代ハード・バップだって全部おなじように聴こえるじゃないかという声が出てきそうだが、当時のミュージシャンには“フラ”があった。同工異曲といわれようがフィリー・ジョー・ジョーンズのドラムスが快調ならば、ジャッキー・マクリーンの音程のずれたサックスが切々と訴えてくれば全部OK、というところがある。ようするにあの時代のハード・バップは、かわいげがあるのだ。に比べて(別に比べる必要もないけど)、このアルバムは、ちょっとかわいげが足りないなあ。

好きなミュージシャン、好きなレーベルなだけに、こちらの期待値は大きい。次の作品ではもっとかわいいところを・・・という前に、とりあえず来日してくれ! 生で見たいんだ!!

The Core on Disk Union
2009.10.27
Disc Jacket
後藤雅洋の見解
The Core & More Vol.1: The Art of No Return

Moserobie Music Production MMPCD065

1. The Art of No Return part 1 2. The Art of No Return part 2 3. The Art of No Return part 3 4. The Art of No Return part 4

Magnus Broo(tp) Jorgen Mathisen(ts, cl) Jonas Kullhammar(ts) Vidar Johansen(bs, b-cl)Erlend Slettevold(p) Steinar Raknes(b) Espen Aalberg(ds)
recorded at Nasjonal Jazzscene, Oslo on January 13-14, 2009

良い演奏である。勢いもある。
しかし、これが“今の気分か”と言われると心もとない。

 何の前情報も無く聴いてみる。ウーン、80年代エンヤ盤あたりの雰囲気。つまり、ケレン味無くストレートな好演だが、アメリカ・ジャズとは一味違った気分とでも言おうか。当時アメリカのジャズシーンはウイントン・マルサリスにしろ、その対極にいたジョン・ゾーンにしろ、いわゆるジャズに対する「メタ視線」みたいなものを感じさせたが、ヨーロッパ系のレーベルはECMもenjaもわが道を行く風情で、あまりヤヤこしい屈折感は感じなかったように思う。もっとも、ヨーロッパ・ジャズは最初から屈折しているという見方も出来なくはないのだが、、、

 「ケレン味なくストレート」ということは、「メタ」ではなく「ベタ」にジャズ的価値観を信奉しているが故の力強さと言えるだろう、まるで60年代の新人たちのように、まだ“モダン”を信じているのだ。トラック2など、さりげなく始まり次第に高揚し、最後に大団円、大盛り上がり大会に突入するところなぞ、まさに「ジャズ」だ。大変にわかりやすい。

 ところで、改めてデータを見て、ナルホドと思った。「The Art Of No Return」 のことは何も知らないので、あるいは間違っているかもしれないが、そこはクロスレビュー、お題を出してくれた須藤さんの正確な情報を参照してもらうとして、オスロ録音、そしてライナーに散見される文字面から想像すれば、北欧系か。とりあえず「ヨーロッパ・ジャズではなかろうか」という見立ては、半分正解。

 しかし仮に北欧系だとすれば、オスロ録音が名物のECMで、enjaではない。単に「雰囲気」のたとえ話だからどーでもよいのだが、この演奏の“熱さ”はクールが売り物のアイヒャーECMではなくて、ヨーロッパ人にも関わらず“熱演好み”のホルスト・ウエーヴァーっぽいなあ、と感じてしまったのだから、やはりエンヤなのだ。(言うまでも無いが本作のレーベルは違う)

 さて、そこで問題なのが録音年だ。2009年、バリバリの新録なのである。もちろんクロスレビューなのだから新録新譜が前提だろうが、前回のクロスレビューで取り上げたキースの例(ずいぶん前の録音だった)もあるし、、、などと思いをめぐらせていたのだが、最新録音だとすれば、これはまた別の見方が出てこようと言うものだ。

 例えば、つい先日益子編集長が講演してくれた“現代”N.Y.ダウンタウン・シーンの雰囲気とはエライ違いなのである。「メタ視線」と裁断することが適切かどうかはさておくとして、ある種の「苦難の体験」あるいは「シンプルさへの戸惑い、懐疑」(それを単純に9.11の経験と言って良いのかどうか、我ら日本人には難しいところなのだが、、、)とでもいえるような経路を経た上での“内省的気分”が益子さんのかけるアルバムの通奏低音だとすれば、須藤さんの挙げたこのアルバムは、さながら“ベルリンの壁の崩壊”も経験したのかどうか危ぶまれる別天地、ジャズユートピアなのである。

 良い演奏である。勢いもある。しかし、これが“今の気分か”と言われると心もとない。それこそ“80年代ヨーロッパ隠れ名盤”的、熱演なのだった。


The Core on Disk Union
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