column / コラム
2008.11.27

益子博之のニューヨーク放浪記 2004年11月編 vol.07

bubbling over in downtown - part 7

西4丁目駅で地下鉄を降りると小雨が降っているので、小走りに急ぐ。55バーに入ろうとすると、沼田順氏にバッタリ出くわす。「あれっ、なに今頃来てんだよ。もう終わっちゃったよ」 終わっちゃったって、あなた、NYのジャズ・クラブがそんなに早く閉まるわけがないじゃないですか。一昨夜も2セットやってるし。 「でも、すげー感動した」そんなら、もう1セット見ましょうよ。「俺、ブルックリンの友達のトコに泊まっててさ。地下鉄って、1時間に1本くらいあるの?」 一晩中、普通に走ってますがな。結構濡れてきたので早く中に入りたいのだが、なかなか納得してくれない。 「入るとき、また金払わなきゃダメかなぁ?」半券持ってりゃ大丈夫ですよ。ようやく店に入れた。


12:00am at 55 Bar, 55 Christopher Street, NYC
Tim Berne SCIENCE FRICTION
Tim Berne - alto sax; Craig Taborn - rhodes piano, keyboards, laptop; Marc Ducret - electric guitar; Tom Rainey - drums with Herb Robertson - trumpet, cornet, flugelhorn.




しかし、まぁ、こんなにも変わるものなのか、中一日を挿んでの演奏は、打って変わって凄まじかった、の一言。

まず、練習でもしたかのように、アルトとペットのテーマ吹奏が結構合わせられるようになっていたのだ。そして、ギターとキーボードの音量が5割増。そのため、テーマ演奏中でもディテールが良く聞き取れる。ソロに入るともうティム・バーンの独壇場で、ハーブ・ロバートソンにはほとんどソロ・スペースを与えない。ロバートソンのソロは静かなインタールード的な部分に限られており、さまざまなミュートを使い分けた演奏は、それはそれでムード作りに貢献していたし、他のメンバーのバックでは一種のノイズ発生装置として、それなりに機能している。

残念ながらクレイグ・テイボーンのソロ・スペースもなかったのだが、ソロイストの演奏に対する素早い反応が素晴らしい。特に、マーク・デュクレエとの絡みは二人とも指先が見えなくなるほどの圧倒的なスピード感。さらに、デュクレエのギターは前回以上にキレまくりで、テーマだろうが、バーンのソロだろうが、おもわずハッとさせられるタイミングの鋭いフレーズやノイズを叩きつけてくる。トム・レイニーも5割増の音量に負けじと、ドカドカ重たいキックを連打しておりました。そんなわけでこの日の演奏には大満足、NY最後の夜は感動に包まれて更けていった。



終了後、テイボーンとバーンに、月曜より全然良かったと伝えると、テイボーンは「Really? Thank you. It is going better and better !」と素直に喜んでくれたが、バーンは一言、「Just a warming up」。ミュージシャンなんて、こんなものなのね。まぁ、このメンバーでこのまま欧州ツアーへ出発することになっていたので、この二晩にはリハーサル的な意味合いがあると予想はしていたのだが、ここまであからさまに言われるとちょっと、ねぇ......。

興奮醒めやらぬまま、外に出ると雨はもう止んでいる。沼田さんが、昼から何も食べていないというので、ピザ屋にでも寄ることに。私は瓶入りの紅茶を飲む。お互いのここ数日のことなど喋り出すとキリがない。私は明日(というか、もう今日だな)帰国なので、2時過ぎに切り上げて帰ることにする。まだ地下鉄のことを心配している沼田さんを引っ張って駅に行くと、カードの入れ方を失敗したらしく、どうしても中に入れない。今日はつくづくツイてないな。沼田さんのカードを借りると一発でOK。ブルックリン方面の列車がすぐ到着したので、線路越しに手を振る。アップタウン行きのExpressを待ったが、いつまで経っても来ないので、Localのホームへ行くとすぐ来る。なんだかなぁ。

部屋のカーペットはまだ濡れている。多めにチップを置いて、手紙まで書いたのに。荷物のパッキングを済ませてベッドに入ったが、結局眠れなかった。これで、飛行機の中で眠れるだろう。TVはサンクス・ギヴィング・デイに向けて賑わい始めた街の様子ばかりを伝えている。季節外れの妙に暖かい日になるらしい。

<おしまい>
2008.11.27

益子博之のニューヨーク放浪記 2004年11月編 vol.06

bubbling over in downtown - part 6

2004年11月24日(水)

ホテルの近くのカメラを扱っている店で、これと同じメモリをくれ、と頼むと店の親父に「お前のカメラはメガピクセルだから256MBのを買え」と迫られる。「今日1日しか使わないから」とかなんとか言って、128MBのにする。が、請求を見てびっくり。なんと150ドル。悔しいが値切る交渉をするだけの英語力がないので、仕方なくカードで支払い。あとで気がついたのだが、ホテルと提携しているショップで買うと割引が利いたらしい。悔しさ2倍増。

この日は前述の米澤恵実さんが欧州ツアーから帰米するというので、会う約束をしていたのだが、何度電話しても連絡が着かないので、諦める。どうも今日はツイていないらしい。(後日、連絡をもらったのだが、フライトのトラブルで間に合わなかったらしい。残念)


9:00pm at Barbes, 376 9th Street, Brooklyn
Kevin Norton BAUHAUS QUARTET
Dave Ballou - trumpet, cornet, flugelhorn; Tony Malaby - tenor & soprano saxes; John Lindberg - bass; Kevin Norton - drums, vibes.


NY最後の夜は、まずトニー・マラビーを追って、ブルックリンのバーベスへ。地下鉄の路線に気をつけていたので、難なく到着。この日はカヴァー・チャージ8ドル+ドリンク代。会場は立ち見で埋まるほどの盛況ぶり。



リーダーのケヴィン・ノートンは、アンソニー・ブラクストンとの共演が多いヴェテラン・ドラマーで、曲によってヴァイブも使う。いわゆる「フリー」を聴かせられるのかと思ったが、意外にガッチリと決められた曲構成の中で、各人がフリーっぽいムードのソロを取るという感じなので、フリーでもなく、オーソドックスなジャズでもなく、かといって自由度の高い現代的な音楽でもなく、中途半端でどうにも落ち着きどころの悪い音楽になっていた。

とらえどころのなさに輪をかけているのが、デイヴ・バルーの存在。彼は風貌こそデイヴ・ダグラスにちょっと似ているが、ペットのスタイルは根性の入ったダグラスとは対照的な、フワフワとした優柔不断な展開で、技術的には上手いのだろうが、なんとも盛り上がりに欠ける。対するマラビーは、あまりフレーズを吹かず、ほとんどロング・トーンで、あるときは微妙に、ある時は大胆に、サウンドの響かせ方、表情といったものを変化させながら、バンドをヴァイブレーションに巻き込もうとしているようなのだが、こちらもどうも不発のままである。



こういうとき、NYの観客の反応は正直というか、ストレート。一曲終わる毎にぞろぞろと帰ってしまう始末で、ちょっとかわいそうなくらい。そんな状況に変化が見えたのは、1時間ほど経って客の数が半分くらいになった頃だった。ミディアム・テンポのナンバーで、珍しくバルーがエモーショナルないいソロを取ったのだ。すると、それを受けたマラビーがついに爆発。大きく身体を揺すりながら強烈なヴァイブレーションを放出すると、クラブ全体がグルーヴし始め、バンドと観客の一体感が高まっていく。ちょっとしたきっかけで連鎖的な化学反応が起こり、音楽がまったく違うステージに移行してしまう、これこそライヴならではの醍醐味だ。

終了後、ノートンがこのバンドのCDを10ドルで販売するとのこと。
僕は日曜日にバワリーのダウンタウン・ミュージック・ギャラリーで既に14ドルで買っていたので、ちょっと悔しい。マラビーに別れの言葉を言いに行くと、「いつ帰るんだい?」明日の朝。来年、また会えるといいんだけど。「来年はいつ来る予定?」また来たいと思ってるだけなんだけどさ。「そうか。それはそうと友人を連れてきてくれてありがとう」オプスヴィークのときにジャズ批評の原田さんを紹介したからなのだが、ちょっとジーンときてしまった。4ドル損したと言うと大笑い。「明日はサンクス・ギヴィング・デイだね」巨体に似合わない、とても優しい眼差しが目に焼き付いている。



帰りの地下鉄の入口にPuffyの大きな看板が出ていて驚く。アメリカではUtadaはまったく知られていないが、Puffyは本当に人気があるらしい。実際、気をつけていると随分いろんな場所で見かけるのだ。
2008.11.27

益子博之のニューヨーク放浪記 2004年11月編 vol.05

bubbling over in downtown - part 5

2004年11月23日(火)

8:00pm at The Tank, 142 West 42nd Street, NYC
FREE ZONE/SOUND INFUSION
Steve Swell - trombone; Briggan Krauss - alto sax; Dee Pop - drums.




ザ・タンクは、42丁目をタイムズ・スクエアから3ブロックほど西に行った、ポート・オーソリティ・バス・ターミナルの裏手。この辺は、いわゆるオフ・オフ・ブロードウェイと呼ばれるエリアであり、場所柄ゆえか、このザ・タンクはパフォーミング・アート全般が対象のスポットで、普段は演劇やフィルム上映が中心の様子。オーナーが心変わりしたのか、移転先募集の張り紙がある。通りに面したガラス張りの建物の裏に回って入ると、イスが10脚ほどしか置いていないガランとしたL字型のスペースが。カヴァー・チャージ10ドル、ドリンクは「飲みたければ買えば」というノリで、瓶入り・缶入りのものしか売っていない。



最初に登場したのは、スティーヴ・スウェルを中心といたトリオ。まぁ、何というか、いわゆる「フリー・ジャズ」。こういうのは「フリー」という名のひとつのスタイルになってしまっていて、まったく自由な感じがしないので、聴いているのが結構ツラい。ただ、セックス・モブで知られるブリガン・クラウスは、布を丸めて朝顔に突っ込んだり、朝顔を膝の内側に近づけたり遠ざけたりして、ミュートのような効果を引き出し、アルトの音色にさまざまな表情を与えていたのが強く印象に残っている。


9:00pm at The Tank, 142 West 42nd Street, NYC
FREE ZONE/SOUND INFUSION
Russ Lossing - piano; Mat Maneri - viola; John Hebert - bass; Randy Peterson - drums.




続いて登場したこちらのグループも、同じく「フリー・ジャズ」で、こうした音楽は演奏する側にとっては面白い題材なのか、いまだに演奏する人が少なくないようだ。ちょっと前にフレッシュ・サウンド・ニュー・タレントから出たラス・ロシングのアルバムが良かったので、彼に期待していたのだが、弦を直接弾くといった昔ながらの「フリー・スタイル」がメインでイマイチ。リーダーのマット・マネリも、ジェラルド・クリーヴァーやクレイグ・テイボーンのアルバムでの演奏は素晴らしいのだが、これは退屈だった。彼はドラムのランディ・ピーターソンをよく使っているが、僕にはイモにしか思えないし。途中で、カメラのメモリがいっぱいになって撮影不能に。自分のものじゃないので、使い方がよくわからない。一体どうすればいいんだ?



このあと、もうひとつピアノとドラムのデュオが出演したのだが、しんどくなってきたので会場を出る。外でマット・マネリが休んでいたので声を掛ける。10時過ぎなのでNYではまだ早い時間なのだが、見たいと思っていたものはそろそろ終わる頃合いだし、その他にめぼしいものも見当たらないので、この日はスゴスゴとホテルへ退散。

不要な画像が消去できないかとカメラを弄っている間に、うっかり気付かずバスタブのお湯を溢れさせてしまう。なんとか浴室内は処理したが、部屋のカーペットもビッショリでこれがどうにもならん。お馬鹿な自分を呪いながら、明日は新しいメモリを買うことにする。なんだ、簡単な話じゃん。
2008.11.27

益子博之のニューヨーク放浪記 2004年11月編 vol.04

bubbling over in downtown - part 4

2004年11月22日(月)

この日の昼間はお土産漁り。なにしろ会社で多大な顰蹙を買いつつ、の休暇&旅行なので帰国後の心証を良くするためにも欠かせないのだ。しかし、あとで計算したらお土産代が滞在中の出費の半分以上。一体、何しに来ているのやら。




7:00pm at 55 Bar, 55 Christopher Street, NYC
Hans Glawischnig PHOENIX
Scott Wendholdt - trumpet; Miguel Zenon - alto sax; George Colligan - rhodes piano, synthesizer; Hans Glawischnig - 6 string electric bass; Obed Calvaire - drums.


55バーのアーリー・ショウはカヴァー・チャージがフリー。ハンス・グラウィシュニグはオーストリア出身。図らずも昨夜に引き続き、欧州のベーシストがリーダーのバンドとなった。同じくフレッシュ・サウンドからアルバムが出ている。そこではアクースティック・ベースに専念していた彼が、エレクトリック・ベースを弾くというのでどんな音楽になるのか興味津々。



いきなりの6弦ベースによるワウのかかったコードカッティングで幕開け。変拍子ファンクとでも呼べばいいのか、フュージョン世代のポスト・バップ的なアルバムとは、ガラリと変わったダンサブルなビート。これならプエルトリコ出身のアルト、ミゲル・セノーンの存在も活きてくるというもの。キック・ドラムの位置を絶えず直すほどパワフルな黒人ドラマー、オベド・カルヴェイア、シンセサイザーでファンキーなソロを弾き倒すジョージ・コリガンなど、小粒ながらメンバーの演奏も光っていた。グラウィシュニグ曰わく、この日がこのバンドでの初めてライヴだとのこと。あまり期待していなかった分、「めっけもの」といえるライヴだった。

ヴィジェイ・アイヤーといい、アイヴィン・オプスヴィークといい、このグラウィシュニグといい、変拍子の曲を当たり前のように演奏するのだが、それは決して頭で演奏しているという風ではなく、身体に染み込んだリズムが自然に溢れ出してくるような活き活きとしたグルーヴを感じさせる。一方、アントニオ・サンチェスやアリ・ホニッグ等は、極めて複雑なポリリズムや単なるリズム楽器とは異なる奏法を駆使することによって、ドラムをバンド演奏の中心的なポジションに位置づけようとしている。これらの音楽を生で連続して聴いていると、ソロイストのソロを聴かせるというより、リズムの多様な変化の渦に身を任せ、巻き込まれていくことを楽しむようなモード/ムードが、現代ジャズの流れの中に根付いていることを実感させられる。

さて、お次はその「変拍子ジャズ」の元祖、スティーヴ・コールマン。


9:00pm at The Jazz Gallery, 290 Hudson Street, NYC
"Steve Coleman Presents" (open rehearsal/workshop)
Steve Coleman - alto sax; unknown - cornet; Miguel Zenon - alto sax; Reggie Washington - bass; Marcus Gilmore - drums; Jen Shyu - vocals.


ジャズ・ギャラリーはソーホーの西の外れ、消防博物館の先の角を左に曲がってすぐのところにある。間口の狭い建物に入って階段を上がると、白塗りの壁にジャズマンをモチーフにした絵がたくさん掛かっている細長いスペースは、まさにギャラリーという雰囲気。カヴァー・チャージ15ドル、ここは飲み物を出す風もなく、薄暗いところでアルコール中心の、普通のジャズ・クラブとはかなり違うムードだ。

ほとんど客がいないので、前列のほうで待っているとアジア系の女性に話しかけられる。「あなたはミュージシャン?」いや、昔ベースを弾いていたことはあるけど、今日は聴きに来ただけ。日本人かと思ったのだが、どうやら中国系らしく、友人が禅の勉強で日本に行ったことがあり、自分も一度行ってみたいと言う。僕の仕事の説明などしていると少しずつ客が増えてきた。



ほぼ毎週月曜日に行われている"スティーヴ・コールマン・プレゼンツ"という催しは、文字通り公開練習で、残念ながらギグではない。でも、ある意味、今回で一番面白い体験だったかも。バンド・スタンドではコールマンが若い黒人とヘッドフォンをしながら何やら談笑中。これがヴィジェイ・アイヤーのドラマー、マーカス・ギルモアだったのだが、聴いている音楽を元にコールマンが、「ウッケッ、ウッケッ、ウッケッケッ、ウケケッ......」と奇妙な発音でリズム・パターンを教え始める。これがなかなか複雑な変拍子で、流石のギルモアも簡単には覚えられない様子。

そうこうするうち、ギルモアはドラム・スツールに座り、歌声に合わせて叩くのだが、上手くノリが出せないまま。徐々にコールマンは民族音楽っぽいメロディを吹き始めるのだが、生で聴くそのアルト・サウンドは、とても太く柔らかいもので、レコードやCDで聞き慣れた音とはかなり趣の異なるものだ。そういえば、グレッグ・オズビーもそんな感じだった。アドリブも織り交ぜながら、時折中断しては先ほどのリズムを歌ってギルモアを指導するコールマン。他のメンバーも加わって、メロディーの合奏とコールマンのソロが交互に繰り返される。さっきのアジア系の女性もヴォーカルで加わる。やがて、他のメンバーとの議論が。「リズム・パターンはずっと同じだが、メロディとソロではストラクチュアが違う」「メロディはラインのみで、コード・ストラクチュアを持たない。」「ソロのストラクチュアは云々......」といった具合。

ティム・バーンのギグが控えていたので、1時間ほどで出てきてしまったが、9時から12時頃まで続いたはずなので、最後まで粘っていれば熱い演奏が聴けたのかも知れない。何より面白かったのは、このやりとりの間、譜面が一切使われていなかったことだ。おそらく譜面を使えば、彼らなら簡単に演奏できるのだろうが、わざわざ歌ったり、実際に演奏したりを繰り返すことで、身体にリズムやメロディを覚え込ませるという方法をとることの意味。コールマンは、口承芸術としてのジャズの古い伝統を意識的に取り戻そうとしているのではないだろうか。


10:00pm & 12:00am at 55 Bar, 55 Christopher Street, NYC
Tim Berne SCIENCE FRICTION
Tim Berne - alto sax; Craig Taborn - rhodes piano, keyboards, laptop; Marc Ducret - electric guitar; Tom Rainey - drums with Herb Robertson - trumpet, cornet, flugelhorn.




再びグリニッチ・ヴィレッジに戻り、いよいよ今回のメイン・イベント、ティム・バーン。カヴァー・チャージ10ドル+ドリンク代。チャージは出演者によって結構変わる。既に演奏は始まっており、店内は超満員。カウンターの奥のスペースならなんとか入れそうなので、ズンズン進んでいくと、またまた原田さん夫妻が。何曲目かと訊くと、まだ1曲目だという。ラッキー。



今回はサイエンス・フリクションの4人にハーブ・ロバートソンの加わった特別編成。だが、残念ながらこの日の演奏は、正直言ってあんまり良くなかったのだ。アルトのテーマ吹奏にペットが全然合わせられず、かなり聞き苦しい。目当てのバーンはほとんどソロを取らず、リフやリズムフィギュアに徹して、ロバートソンに任せている感じなのだが、これが完全に古いタイプのフリー・スタイルというか、急速調の上昇&下降フレーズを繰り返すばかりで、何のためにペットを加えているのか、理解に苦しむような演奏なのだ。



だが、残りの3人はやりたい放題で素晴らしかった。特に、クレイグ・テイボーンとマーク・デュクレエに関しては、どうやってあの多彩なサウンドを出しているのかを直に目の当たりにできてとても面白かったし、テイボーンの長いソロもファンキーで良かった。

そんなわけで、総体としては物足りないというか、あまりパッとしない印象だった。これを見るために無理して来たようなものなのに......。原田さんも頻りに悔しがっている。原田さんは酒が飲めないし、翌日帰国だというので、無理に誘うのは止めて、またタクシーに同乗させてもらい、不完全燃焼のままホテルへ。
2008.11.26

益子博之のニューヨーク放浪記 2004年11月編 vol.03

bubbling over in downtown - part 3

それでも、まだ頭痛がすることには変わりないので、頭痛薬を飲んで寝る。気付くと5時を過ぎている。慌てて身支度をしてホテルを出る。


7:00pm at Barbes, 376 9th Street, Brooklyn
JAZZ PASSENGERS
Roy Nathanson - alto sax, vocals, storytelling; Sam Bardfeld - violin; Tim Kaya - bass, vocals; Gerald Cleaver - drums.




まずはブルックリンのバーベスというクラブへ。NYの地下鉄はLocalとExpressが入り乱れていて、慣れないと在らぬ方向に行ってしまうこともしばしばなのだが、この日は正しい車両に乗ったにもかかわらず、工事の煽りで気がついたら全然違う路線を走っていた。慌てて引き返したが、あとの予定もあり、10分程度の滞在時間となってしまった。

バーベスはプロスペクト・パーク駅ひとつ手前のセヴンス・アヴェニュー駅で降り、住宅街を1ブロック歩いた暗い角にある。ウェブから落とした地図がなければ見落としてしまうほど。非常に狭く薄暗いところで、バーカウンターの奥に別室となっているライヴ・スペースは30人も入れば立ち見でギュウギュウな感じ。この日はカヴァー・チャージがフリーで、ドリンク代のみ。

ジャズ・パッセンジャーズは沼田順氏によると、ブロンディのデボラ・ハリーがずっとヴォーカルをやっていたとのことだが、この日は不在。それでも語りや歌が表現の中心であることに変わりなく、残念ながら言葉のわからぬ僕にはまったく楽しむことができない。ジェラルド・クリーヴァーに声をかける暇もなく、早々にマンハッタンに逆戻りする。


8:30pm at Dizzy's Club Coca-Cola, 33 West 60th Street, NYC
Antonio Sanchez Group
Adam Rogers - electric guitar; Ben Street - bass; Antonio Sanchez - drums.




セントラルの南西角、コロンバス・サークルに面したタイム・ワーナー・ビルディングの5〜6階を占めるジャズ・アット・リンカーン・センター。ここで最も小さいホールがディジーズ・クラブ・コカ・コーラだ。ここは明らかにほかのジャズ・クラブとは客層が異なり、40、50代以上のエスタブリッシュメントが着飾り、ジャズを聴くのではなく、ムードを楽しみに来ている風情。ブルーノート東京に近い雰囲気か。

比較的若い層の音楽を聴きたい人たちが背後のバーカウンターを占拠している。カヴァー・チャージ30ドル、テーブル席はミニマム10ドル、カウンターは5ドル。クラブのハシゴで食事の暇がないので、チキン入りのサラダを注文。流石に今回で一番美味しい食事だったかも。バンド・スタンドの背後は摩天楼の夜景が広がる全面ガラス張り。う〜ん、このゴージャスかつバブリーな空気、場違いな気がして仕方がない。



これだけのメンバーで演奏のほうは悪かろうはずもないが、このリラックス・ムードにスリルや刺激を求めるのは贅沢すぎるだろうか。アントニオ・サンチェスは4ビート・スウィングを叩きながら、左足でクラーヴェのリズムを刻むという高等テクニックを披露。この奏法ができるのは、彼のほかにはエル・ネグロ・エルナンデス等、数人しかいないといわれるほど難易度の高いものらしい。1時間弱の演奏後、メンバーがフロアで友人達と談笑する間を縫って、55バーへと急ぐ。

この日の55バーはカヴァー・チャージ7ドル+ドリンク代。最前列の席で『ジャズ批評』の原田和典編集長夫妻が席を取っておいてくれた。ありがたいのだが、フロント二人の目の前でいくらなんでも近過ぎ。


10:00pm & 11:30pm at 55 Bar, 55 Christopher Street, NYC
Eivind Opsvik OVERSEAS
Loren Stillman - alto sax; Tony Malaby - tenor sax; Jacob Sacks - rhodes piano; Eivind Opsvik -bass; Jeffery Davis - drums.




6月以来、5ヶ月ぶりのトニー・マラビーとの再会である。どうやら日本から来たクレイジーなヤツのことは覚えていてくれたようだ。ノルウェイ出身のエイヴィン・オプスヴィークをはじめ、メンバーは30歳前後、40歳のマラビーとはひとまわり違う世代。その所為か、アルトのロレン・スティルマンに頻りに指示を出すなど、バンド全体に気を配りつつ、抑えた演奏に終始していたマラビーは音楽監督的な役割を果たしているのだろう。そういえば、ドラムのジェフ・デイヴィスの細君、クリス(<見に来てました)のバンドのときも同じような感じだった。自分のバンドやベテラン勢のバンドでブチ切れまくる様子とは好対照だ。



ホーンを入れた曲とピアノ・トリオの曲をほぼ交互に演奏。かなり入り組んだ曲も多く、フレッシュ・サウンドのアルバムのようなエモーショナルな雰囲気は形を潜め、全体としては「楽曲の発表会」とでも言えばいいのだろうか、スタティックな印象が強く残る。とはいえ、ドラムとピアノはしばしばアウトしたり、リズムを崩したり、と息のあった応酬を繰り広げ、マラビーは吹きまくることはないのだが、一音だけでも存在感のあるテナーで色を添えていた。スティルマンがやや力不足だったのを除けば、若手らしい意欲に溢れた、なかなかの演奏ではなかろうか。



原田さんはなぜか夜の地下鉄に乗ることを異常に怖がっており、誘われるまま、タクシーに同乗させてもらう。ペン・ステーションの裏側、マディソン・スクエア・ガーデンの角で降ろしてもらい、翌日の再会を約して分かれる。
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