column / コラム
2008.12.09

益子博之のニューヨーク放浪記 2005年6月編 vol.12

lost in downtown - part 12

9:00pm & 10:30pm at The Jazz Gallery, 290 Hudson Street, NYC
Drew Gress' 7 BLACK BUTTERFLIES - CD Release Party
Ralph Alessi - trumpet; Tim Berne - alto sax; Craig Taborn - piano; Drew Gress - bass; Tom Rainey - drums.
($15 cover/no minimum)




到着したのは9:30頃で客席は超満員、ジョナサン・フィンレイソンやスティーヴ・リーマンの顔も見える。立錐の余地もないので奥のトイレに繋がる通路の椅子に座る。しっかりしたSRがあるわけでもないので、ドラムの音ばかりがドスンドスンと響いてくる。とはいえ、ティム・バーンとクレイグ・テイボーンの音の粒立ちは流石。

ファースト・セットが終わると楽屋がないのでメンバーは通路の奥の比較的広い場所に移動。テイボーンは僕の顔を覚えていたらしく、目が合うとちょっと驚いた表情を見せた。帰りの客の潮が一段落したので前から3列目に席を確保する。



セカンド・セット、近くで聴くと音のバランスが格段に良い。テイボーンのアクースティック・ピアノを生で聴くのは初めて。強靱なタッチ。透明感に満ちたハーモニー。迂闊にも気付くと10分ほど寝ていたらしい。またしても不覚。演奏は既に終盤に差し掛かっている。バンド全体はあくまで緻密に描き込まれた構造の枠内での即興演奏。アブストラクトなようでいて印象に残るメロディ・ライン。非常に完成度の高い音楽だ。



終演後、まるであなたのオールスター・バンドのような編成ですね、とバーンに話しかけるが「これはドルーのバンドだ」と相変わらず素っ気ないというか、性格の悪さ丸出しの反応。テイボーンには、君のアクースティック・ピアノを生で聴くのは初めてだけど凄く良かった、と言ったつもりだったのが、ヨレヨレで無茶苦茶な英語になっていたらしく、ポカンとした表情をしている。ところで何故一昨夜はバーベスに来なかったの?「あぁ、ロードに出ていてNYに居なかったんだ。ジェラルドには言ってあったんだけど...」そうだったのか。上手く言葉が出てこないので、またどこかで会えるのを楽しみにしているよ、と別れを告げる。


12:00am at Smalls, 183 West 10th Street, NYC
J.D. Allen Quartet
J.D. Allen - tenor sax; George Burton - piano; Chris Lightcap - bass; Damion Reid - drums.
($20 cover including 2 drink)




まるで分からず屋の暴れん坊のような風貌のJ.D.アレン。左利きのデイミオン・リードが繰り出す急速調の4ビートに乗ってぶつ切りフレーズを憑かれたように延々と吹き続ける。ピアノはぎこちないリズムで不協和音に近いコードをぶつけてくる個性派。アレンが時折やりにくそうな表情を浮かべる。クリス・ライトキャップは後ろを向いたまま巨体を揺らしながら野太い音で弦を掻き鳴らしている。



終演後、ライトキャップに話しかける。日本から来たんだ。「ワオ!」君の2枚のアルバムが大好きで、一昨夜はトニー・マラビーを聴いた。「そうか。来週はトニーとも演るし、いつもはクレイグ・テイボーンやジェイコブ・サックスとも演ってるんだ。彼らのことは知っているかい?」勿論。でも明日の朝、日本に帰るからそのギグは見られないんだ。次のレコーディングの予定は?「計画はしている。クレイグ・テイボーンを使いたいんだけど、彼が忙しすぎて予定が立たないんだよ」ところで、あのピアニストは誰?「ジョージ、え〜と、ジョージなんだっけな。それしか知らないんだ。店の人にでも訊いてくれ」おいおい、バンド・メンバーの名前も知らんのか。T女史がカウンターの中に訪ねるがやはりジョージ Bまでしかわからない。一体どうなってるんだ。最終的にジョージ・バートンと判明。




1:00am at Fat Cat, 75 Christopher Street, NYC
Jacques Schwarz-Bart Quartet
Jacques Schwarz-Bart - tenor sax; Jean-Michel Pilc - piano; Johannes Weidenmueller - bass; Rodney Green - drums.
($10 cover/no minimum)




いよいよ25本目、最後のライヴだ。ジャン=ミシェル・ピルクがCD通りの鋭いタッチで弾きまくる。それ以上はもうあまり覚えていない。アリ・ホニッグのバンドでも弾いていたベーシストの名前がわからないので話しかける。月曜日にアリ・ホニッグのバンドも聴いたんだけど、凄く良かったよ。「ありがとう。アリとは毎週月曜にやってるんだ。どこから来たんだい?」日本。「そいつは凄い。NYにはどのくらい?」一週間。実は明日の朝帰るんだ。ところで、失礼だけどアンタの名前を知らないんだ。「ヨハネス・ワイデンミューラーだ。W-E-I-D-E-N-M-U-E-L-L-E-R」ありがとう。またいつか。帰り掛けに入口の黒板を見るとメンツの名前が書いてあった。でも、Johannes Weidenmuller、これでは"e"がひとつ足りない。

ホテルの前で夜食に屋台のホットドッグを買う。ザワークラウトが入っているのがNY流。風呂に入ってから、資料の整理、使ったドルの勘定、荷物のパッキング、後藤さんと取り留めのない会話。時差ボケ対策で飛行機の中で寝るために徹夜のつもりだったが、後藤さんに釣られてついウトウト、した途端に目覚まし時計がけたたましく鳴った。土曜の朝5時。朝日の射し込む窓の外では早くも週末の喧噪が始まろうとしている。

<おしまい>
2008.12.09

益子博之のニューヨーク放浪記 2005年6月編 vol.11

lost in downtown - part 11

2005年6月10日(金)

6日目ともなると流石に疲れが蓄ってきている。ブランチはT女史の案内でトライベッカのGigino'sというイタリアン。グラウンド・ゼロへ行くときにバスで通った辺りだ。微妙に開店前だったので通りの向かいにあるベンチでボーっとする。11:30に開店、サラダとピザとパスタを頼む。この店の名物だというパスタはビーツが入っているため真っ赤だ。写真でも見ていたら絶対頼まないだろう。だが、味のほうはちょっと変わったソース焼きそばみたいでまあまあ。

会社向けのお土産探しに皆を付き合わせるわけにはいかないので、ここからは単独行動。まずはリンカーン・センターのタワー・レコードで印象に残ったミュージシャンのCDを漁る。その後、運良く連絡がついたので米澤恵実さんとカーネギー・ホールで待ち合わせ。会社向けのお土産をどうするか相談すると穴場のスイス・チョコレート店に案内してくれる。高島屋地下のカフェでオフレコ話をアレコレ。ちょっとした段取りの行き違いもあったがフィフス・アヴェニューで後藤さん、T女史と再合流、米澤さんに別れを告げて一旦ホテルに戻る。




6:00pm at Kavehaz, 37 West 26th Street, NYC
GLASS GHOST
Sam Hoyt - trumpet; Chris Dingman - vibes; Keith Witty - bass; Qasim Naqvi - drums.
(no cover/1 drink minimum)


この夜はスタート時間が早いのでここで軽く食事をすることに。サラダ、BLTサンド、チリなどをオーダー。一段高いステージではヴァイブとドラムが二人でスタンダードなどをやり始める。おいおい二人かよ、と思っていると残りのメンバーが遅れてやってきた。



最初はおとなしくスタンダードを演っていたが、ペットが挨拶した後はオリジナル曲ばかりの展開。ペットの音色は悪くないが、朝顔をこちらに向けて吹くので耳に直撃、喧しいことこの上ないだけでなく(でも巧いペット吹きなら直撃してもうるさくないんだけど)、リズム感もイマイチ。スティーヴ・リーマンのバンドではほとんど出番の無かったクリス・ディングマンもしっかりソロは取るもののこれといった特徴が感じられない。オリジナルを演るなら、もっとバンドとしての自己主張があってもいいのではないか。などと考えながらウトウト。おっとイカン。だいぶ疲れているらしい。


8:00pm at Sweet Rhythm, 88 7th Avenue South, NYC
Carl Allen and NEW SPIRIT
Marcus Strickland, tenor & soprano saxes; Ronnie Mathews - piano; Ben Wolfe - bass; Carl Allen - drums.
($20 cover/$10 minimum)




店に入ると例のアジア系の店員が寄ってくる。中程の席に案内しつつ「今日はセット通しで見ていってくれるんでしょうね?」と念を押される。勿論、ファースト・セットは全部見ていくよ、と答える。リーダーのカール・アレン以外のメンバーは店内をウロウロしている。ロニー・マシューズは60年代からのヴェテラン。すっかり良い爺さんと化し、ジャケット写真で見覚えのある面影はない。

紫色の派手なスーツに身を包んだカール・アレンが巨体を揺らしながら入ってくる。軽い打ち合わせの後、バンド・スタンドへ。演奏はオーソドックスなハードバップとコルトレーン・スタイルが半々くらい。注目のマーカス・ストリックランドは、ジェフ・ワッツとのパワー・プレイとは違って微妙な強弱や細やかなヴィブラートなどを活かした余裕綽々の演奏。



圧巻だったのは終盤の『オール・ザ・シングス・ユー・アー』。急速調の4ビートで始まったが、テナー・ソロに入るやアレンが4小節と置かずに倍テンにしたり3拍子にしたりと次々にリズムを変化させ続ける。虐めに近い猛烈なしごきだ。こんな場面をライヴの現場で見るのは初めて。だが、その荒技をモノともせずにしっかり付いていくストリックランド。ベースのほうが先に音を上げている。こうした鍛錬を経て本物が生き残っていくジャズの伝統を垣間見た気がする。

約束通りファースト・セットの終わりを見届けて精算。例のアジア系店員に満面の笑みで見送られる。
2008.12.09

益子博之のニューヨーク放浪記 2005年6月編 vol.10

lost in downtown - part 10

上からぶら下がった青い照明以外に何も目印のないヌーブルー。階段の手すりに腰掛けたあんちゃんに5ドルずつ渡して入場。中はかなり暗く、左手にバーカウンター、右手には低いソファとその先にDJブースといった具合で普通のジャズ・クラブとは違った雰囲気。壁にはLPジャケットがズラリで、中にはマイルス・デイヴィス『オン・ザ・コーナー』、オーネット・コールマン『ダンシング・イン・ユア・ヘッド』などもあったが、大半はブラックなダンス・ミュージック系。




11:00pm at Nublu, 62 Avenue C, NYC
KORNSTAD/OPSVIK
Jonathan Finlayson - trumpet; Haakon Kornstad - tenor sax; Eivind Opsvik - bass; R.J. Miller - drums.
($5 cover/no minimum)




こちらも既に演奏の真っ直中。ホーコン・コルンスタのテナー・サウンドは明らかにアメリカ勢とは異なる特徴を持っているが、パワーでは負けていない。初期のオーネット・コールマン・クォーテットっぽくてなかなか良いじゃないかと思ったのも束の間、10分ほどで演奏終了。セカンド・セットがあるはずだと待っていたが、アイヴィン・オプスヴィークが楽器を片付け始めたので、これで終わり? と声を掛ける。「今夜はこれで終わりだけど、明日もやるから来てくれよ」明日は明日で予定がビッシリなんだよなぁ。残念。


12:00am at 55 Bar, 55 Christopher Street, NYC
Wayne Krantz Trio
Wayne Krantz - electric guitar; Anthony Jackson - contrabass guitar; Dafnis Prieto - drums.
($15 cover including 2 drink)


毎回長蛇の列ができ、入れないことも屡々だと聞いていたが、セカンド・セットの途中の所為か、すんなり入れる。しかも途中入場なので、通常2ドリンク付き15ドルのところ、二人で15ドルでよいという。



2月に日本で見たときより若々しく見えるウェイン・クランツ。ダフニス・プリエトのシャープなドラムに乗って、演奏のほうも快調そのもの。日本で見たときは2ギター+ドラムのアンサンブルに聞こえたが、ストレートなギター+ベース+ドラムの絡み方でギター・ソロも長め。おかげでビールも進んで良い気分だ。

終演後、クランツに話しかける。日本から来たんだけど、2月の来日公演にも行ったんだ。「そいつはありがとう」なんか日本で見たときは疲れているように見えたけど。「どこで見たんだい?」千葉のディズニー・ランドの近く。「あぁ、あれはツアーの最後だから結構疲れていたかも」日本のときとはコンビネーションが違うように感じたんだけど。「ドラマーが違うからね」あくまで僕の感想なんだけど、日本では音域の異なる2ギターのコンビネーションに聞こえたんだけど、今日は普通のギター・トリオだった。アプローチを変えたりするの?「う〜ん、基本的にインプロヴィゼーションだから毎回違うんだよね。それ以上は僕にはわからない」

スモールズへ寄るとミッチ・ボーデンが金も取らずに中へと促す。まさに演奏が終わるところ。マイク・モレーノとジョン・エリスの顔が見える。仕方がないのですぐに出てくる。M氏は明朝帰国の予定。空港へのバスの乗り方など説明しつつホテルに戻る。
2008.12.09

益子博之のニューヨーク放浪記 2005年6月編 vol.09

lost in downtown - part 9

2005年6月9日(木)

この日はT女史に所用があり、昼過ぎまで後藤さんと二人っきり。今回のNY訪問には後藤さんの本場のアメリカン・フード取材という目的もあるので、歴代大統領が一度は訪れることで有名なKatz's Delicatessenへ行くことに。F列車でセカンド・アヴェニュー駅まで下る。日射しが強く、かなり暑くなりそうだ。名物のパストラミ・サンドに豆のスープとグリーン・サラダを注文。すべて一人前だが二人で食べても充分過ぎる量。周りのアメリカ人達は勿論一人で平らげている。パストラミも旨かったが、何でもないサラダが一番美味いと後藤さん絶賛。



腹拵えが済むとこれまでに回ったクラブの外観写真を撮りたいという後藤さんの要望に応えて、アヴェニューC、チャーリー・パーカー・プレイス、グリニッチ・ヴィレッジと炎天下を歩き回る。2時過ぎに所用の済んだT女史と落ち合うが、軽い熱中症に罹ったようなのでホテルで休ませてもらうことに。

夕食は再びM氏も交えて3番街55丁目のPJ Clarke'sというダイナーへ。通りに面した店先はアイリッシュ・パブのような雰囲気でかなり賑やか。奥のほうがダイニング・スペースになっている。後藤さんの目的はハンバーガー。僕はチリにするか迷った末、マカロニ・グラタンを注文。想像通りの殺人的な量で半分ほどでギヴ・アップ。味は良いんだけどねぇ。


8:00pm at Sweet Rhythm, 88 7th Avenue South, NYC
Anat Cohen Quartet - CD Release Party
Anat Cohen - tenor & soprano saxes; Jason Lindner - piano, keyboards; Vicente Archer - bass; Gregory Hutchinson - drums.
($15 cover/$10 minimum)




髪を後ろで束ねたアジア系の店員が、日曜にも来たよねぇ、と声を掛けてくる。アナト・コーエンは話題のトランペット奏者アヴィシャイ・コーエンの姉だ。客席を回って知り合い達に愛嬌を振りまいている。ちょっと太めだが結構可愛いらしい顔立ち。あの腹の出っ張り具合はもしかすると妊娠中なのか。

テナーの鳴りはなかなかだし、まったく危なげのない安定した演奏を披露するが、いまひとつ個性に欠ける。ちょっとラテン・テイストの入ったスウィング・ビートはイージー・リスニング的に響くが、ジェイソン・リンドナーがシャープなタッチで程良いアクセントを添えていた。彼のビッグ・バンドを聴けなかったのが残念だ。



次はブルックリンなので演奏途中で退出する。例のアジア系の店員に、君の音楽が悪いわけでは決してないのだがブルックリンのクラブに行かなければならないのだ、とアナトに伝えて欲しいと耳打ちする。


9:00pm at Barbes, 376 9th Street, Brooklyn
Ben Monder Trio
Ben Monder - electric guitar; Satoshi Takeishi - percussion; Theo Bleckmann - voice, live electronics.
($5 cover/no minimum)




9:30近かったので既に演奏は佳境。ベン・モンダーとティオ・ブレックマンのコンビものはCDで聴いても何をやりたいのか良くわからなかったのだが、これは非常に面白い音楽だ。ギターらしいフレーズはまったく弾かず、まるで寄せては返す波音のようなサウンドを放出するモンダーに、お椀などの道具を使って声を変化させつつエフェクターでさらに変調を加えるブレックマン。そして、アジア風のガジェットにヴァイオリンの弓などを使って多彩なノイズを発散させる武石聡。いつしか曲はビートルズの『ノルウェイの森』に変わり、武石の叩き出す激しいリズムに乗って最高潮へ。



終演後、武石に良かったと声を掛けると、「あぁ、わざわざどうも〜」と甲高い声で答えながら通り過ぎていった。やっぱりライヴで見ないとこういう音楽の良さってわからないよね、と話し合いながらアヴェニューCを目指す。
2008.12.09

益子博之のニューヨーク放浪記 2005年6月編 vol.08

lost in downtown - part 8

9:30頃に到着すると店の前ではトニー・マラビーが一人で椅子に腰掛けて本を読んでいる。「やぁ」まるでいつも会っている友達のような挨拶。早速『ジャズ批評』誌の最新125号を取り出し、このインタビューの質問は僕が作ったんだ、と伝えると「そうだったのか、この前、藤井郷子がとても良いインタビューだと褒めてくれたんだ」来週、エディターの原田和典氏がNYに来るはずだ。「メールくれたから知ってるよ」本当? 来週は君のギグがいっぱいあるけど、僕は見られないから残念だよ。昨日このCD(トーン・コレクター)を買ったんだ。「へぇ、そう。このイラストが面白いよね」とジャケットをしげしげと眺める。現物を見るのは初めてらしい。「もう聴いてくれたのかい?」CDプレイヤー持ってないから、まだ。それじゃあ、また後で、と側を離れる。



M氏がタバコを吸っていると、マット・マネリが一本くれないか、と声を掛けてくる。「今夜のギグを見に来たのかい?」もちろん。「音楽やってるの?」いや、今はやっていない。「そうなんだ」と隣のガール・フレンドとイチャついている。中に入ると席が埋まっていて座れない。T女史が僕と後藤さんに空席を確保してくれた。事前情報ではクレイグ・テイボーンがキーボードで入るはずだったのだが結局、姿を表すことはなかった。


10:00pm at Barbes, 376 9th Street, Brooklyn
Gerald Cleaver's UNCLE JUNE
Tony Malaby - tenor sax; Mat Maneri - viola; Drew Gress - bass; Gerald Cleaver - drums.
($8 cover/no minimum)




ヴェイル・オブ・ネイムズによるCDとはかなり違う音楽。メロディは決してわかりやすくはないのだが、どこか物悲しいムードを湛えている。誰か一人がソロを取るというのではなく、マラビーとマネリは互いの出す音に注意深く耳を傾けながら、自分が前に出たり、後ろに退いたり、同時に演奏したり、といった具合に進行していく。そして、抜群のスウィング感でバック・アップするドルー・グレスに、肌理細かいドラミングでバンドをコントロールするジェラルド・クリーヴァー。この時点でのベスト・パフォーマンス。マラビーの演奏中に突然拍手したり、意味不明の合いの手を叫んだりするマネリの存在感が抜きん出ていた。



同行の会社の人に呼び出されたらしく、Y常務が一足先のご帰還。トイレの後、クリーヴァーに声を掛ける。僕のこと、覚えてる?「え〜と...」原田和典氏の友達だよ。「ああ、思い出した」彼は来週NYに来るよ。「本当かい? そいつは凄い」とても良い演奏だった。「ありがとう。そろそろ始めなきゃ」それじゃあ、と席に戻る。



セカンド・セットもややアブストラクトな展開でスタート。気が付くと聞き覚えのあるメロディに変わっている。『さくらさくら』だ。なんとサービス精神旺盛な奴らなんだ、と思ったが、きっちりアレンジされた譜面を使っていたので、実際は普段からレパートリーに入っているのだろう。



20分ほどで短めなセカンド・セットが終了、再びクリーヴァーに話しかける。『さくらさくら』を演ってくれてありがとう。次のレコーディングの予定は?「このバンドでここで録音する予定なんだけど、どこから出すかは決まってない。アンタ、どこか良いところを知らないか?」僕にはわからないな。フレッシュ・サウンドはどうなの?「あそこは色々あって...。今度はいつNYに来るんだい?」今のところ予定はないけど。「じゃあ、連絡先を教えるから、次に来るときは必ず連絡してくれ」

マネリにも声を掛ける。僕のこと、覚えてる?「申し訳ないけど覚えていない」去年11月にザ・タンクでラス・ロシングと演ったときに見に行ったんだ。「確かにラスとは演ったけど...。じゃあ、君は日本から来た人?」そう。「そうか、思い出したよ」今夜のは凄く良かったよ。「ありがとう」


12:30am at Fat Cat, 75 Christopher Street, NYC
Myron Walden/Darren Barrett Quintet
Darren Barrett - trumpet; Myron Walden - tenor sax; Mike Moreno - electric guitar; Sean Conly - bass; Rodney Green - drums.
($10 cover/no minimum)




もうオーナーのミッチ・ボーデンともすっかり顔馴染みである。マイロン・ウォルデンはアルトではなくテナーを吹いている。残念ながらオーソドックスな2管クインテットらしい、という以外どんな音楽だったのか良く覚えていない。観客は我々4人を含めてたったの6人。だが、そんなことにはお構いなしにやたらと気合いの入った演奏が延々と続いたことだけは覚えている。


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