益子博之のニューヨーク放浪記 2005年9月編 vol.11
sleepwalking in downtown - part 11
セカンド・セットではバンド・スタンド正面の席を確保したのだが、デイヴィッド・トーンのラックがあるのでクレイグ・テイボーンの音がやや聴き難い。テイボーンのフェンダー・ローズの独奏が徐々に音量を下げていくとそのまま演奏が終わってしまった。ティム・バーンが苦笑を浮かべつつ休憩したらもう1セットやるからねと言って、セカンド・セットは50分弱程度で終了。
テイボーンにロッテ・アンカーがCDを持って来てくれたことを報告し、ファット・キャットに行くけど戻ってくるからと伝えて店を出た。ファット・キャットにはそこそこ客が入っている。ファースト・セットが終わったばかりらしく、なかなか始まる気配がないのでバーンのサード・セットに間に合うかどうか気が気ではない。中央のマイクの足元には3つほどのエフェクト・ペダルとギター・アンプ。右側の椅子にはテナーが立て掛けてあった。
12:30pm at Fat Cat, 75 Christopher Street, NYC
Avishai Cohen Group
Avishai Cohen - trumpet, effects; Joel Frahm - tenor sax; Aaron Goldberg - piano; Omer Avital - bass; Daniel Freedman - drums.
($15 cover/no minimum)
アヴィシャイ・コーエンは上背はあるがかなり細身で幼さが残る顔立ち。テナー抜きの4人で演奏は始まった。フレッシュ・サウンドの"The Trumpet Player"で聴かせたような凄味や音圧は感じられないが、ワウやエコーといったエフェクター、ミュートの使い方も含めて、とにかく危なげがなく巧い。2曲目から加わったジョウル・フラームは、ちょっと70年代のスタン・ゲッツを思わせるメロディックなアプローチ。エアロン・ゴールドバーグも灰汁の強さはないが反復フレーズで盛り上げたり、両手で別のフレーズを弾いたり、器用なところを見せる。スタンダードやサード・ワールド・ラヴの曲のほかにジョー・ヘンダーソンの"Inner Urge"など、ストレートでオーソドックスなジャズなのだが、学生らしい若い客たちにはかなり受けている。
すると、酔っ払った若い女が突然入ってきてバンド・スタンド脇に陣取り、フゥ〜とかワ〜ォとか一人で嬌声を発している。ウェイン・クランツのときといい、厄介な酔客がいるもんだ。こちらの女性は1曲で早々に退散したが。
一瞬、11月のケレン・アンとの来日について訊こうかとも思ったのだが、急いで55バーに向かう。時刻は1:30、残念ながら演奏は終わっていた。テイボーンがまだバンド・スタンドにいる。ミスター・テイボーン!「ミスターなんて止してくれよ。クレイグって呼んでくれ」サード・セット、見逃しちゃったよ。「でも、あっちのギグは良かったんだろ?」まあね。「それなら良いじゃないか」残念だけど、明日の朝帰るんだ。また、いつか......。ドア近くのカウンターではバーンやビニーたちが盛り上がっている。客席の奥にはクリフ・アーモンドの姿が見える。
小腹が減ったし、連れがどうしても麺類が食べたいと言うので、コリアン・タウンのKum Gan Sanと言う店に入った。だが、メニューを見ると大半がインチキ和食。失敗したと思ったが店を変えるのも面倒なので、鍋焼きうどんと雲呑スープを頼む。10皿も出てきた付け合わせに救われた。
さて、今回のNY滞在もこれで終わりだ。残金の勘定、荷物の整理を済ませて風呂に入る。ちょっとウトウトするともう6時だ。7時にはチェックアウトし、ロビーで雑誌など眺める。時間通り7:30には迎えが来た。NYに着いたときとは別の担当者。外は前日までの暑いほどの陽気とは打って変わって上着がなくては寒いほど。でも、例年はこれくらいが普通だと言う。
数日前に改装が終わったばかりで真新しいアメリカン航空の出発ロビーはとてもキレイで快適だ。ゲート近くのパン屋でクロワッサン・サンドやスープの朝食。これが半端なレストランでは敵わないほど美味い。また、ここで朝飯を食べることがあるのだろうか...。飛行機の座席はそこそこ前のほう。呼び出しがかかるまではまだ暫くかかりそうだ。
<おしまい>
益子博之のニューヨーク放浪記 2005年9月編 vol.10
sleepwalking in downtown - part 10
最終日、朝は疲れが溜まっているのでゴロゴロして過ごし、ブランチにアヴェニューBのMama'sという店でソウル・フード風の料理を食べる。ミートローフとフライド・チキンのランチを頼んだのだが、これまた量が半端じゃない(付け合わせの野菜を含めて)。ただ、結構味が良いのでそれほど残さずに済んだ。午後はこれまで買いそびれていた会社用のお土産をホテルの近くで調達し、夜に備えてのんびりする。
晩飯は前夜逃したロブスターを食べようとグランド・セントラル・オイスター・バー&レストランへ。定番のクラムチャウダーに1.5ポンドのロブスター。前回ゴチになったBlue Water Grillには敵わないが、件のサーフ・バーの仇は取った気分だ。この後、連れは別のライヴを見に行くことになっていたので、リンカーン・センターのタワー・レコードに寄ると、ビル・エヴァンス "The Complete Village Vanguard Recordings 1961"のUS盤を発見、早速購入する。
1列車でクリストファー・ストリート=シェリダン・スクエア駅に着くとまずファット・キャットに向かう。今週のプログラムに載っていたアヴィシャイ・コーエンがどちらのアヴィシャイなのかを確認するためだ。バーカウンターに居た髭の店員に尋ねるとペットのほうだという。ラッキーなことに予定外の生アヴィシャイが拝めるのだ。
9時頃に55バーに到着すると既に寿司詰め状態、メンバーは楽器のセッティングやチューニングに余念がない。バンド・スタンド真ん前のカウンターにひとつ空きを見つけて潜り込む。丁度目の前にいるデイヴィッド・トーン、長髪パーマにサングラスの写真(ロバート・フリップ風)の印象が強いのだが、実物は肉付きの良い白髪の紳士風。トイレを待っていると中から出てきた彼に出会したのだが、向こうから「ハイ!」なんて声を掛けてくるくらい気さくな人で、イメージとの落差が大きい。PA用のマイクとは別のマイク・セッティングがしてあるのでこのギグもライヴ・レコーディングするようだ。
9:30pm & 11:00pm at 55 Bar, 55 Christopher Street, NYC
Tim Berne's HARD CELL
Tim Berne - alto sax; Craig Taborn - rhodes piano, keyboards, laptop; David Torn - electric guitar, live sampling, effects; Tom Rainey - drums.
($10 cover/2 drink minimum)
ティム・バーンが今夜は3セット、ライヴ・レコーディングする旨を告げてスタート。いつもなら用意されている譜面台がひとつもない完全即興だ。それにしてもデイヴィッド・トーンの創り出すサウンドが凄い。足元のエフェクターだけでなく、ラック・マウントの機材を常に操作しながらギターの音に変調を掛け捲る。ラック上のシンセサイザーもキーボードとしてではなく、ほとんどサウンド・プロセッサーとして使っている。さらに、ティム・バーンのサックスをその場でサンプリングし、加工したノイズを放出。
マーク・デュクレエがエレクトリック・ギターという音を発する道具から「物理的に」如何に多彩な音を引き出せるのか、というアプローチをしているとすれば、彼はエレクトリック・ギターやその他の音響信号から「電気的・電子的な処理」によって如何に多様なサウンドを引き出せるのか、という手法を採っていると言えよう。
そして、トーンが発するサウンドの背景として、バンド・サウンドとの一体感、あるいは反対に異化作用を演出し続けるクレイグ・テイボーン。主役のはずのバーンの影が薄く感じられるほどだ。40分ほどで最初のパートが終了。時計を確認したバーンが次のフレーズを吹き出し、20分弱の短い演奏を追加してファースト・セット終了。いやぁ、見に来た甲斐があった凄まじい演奏だった。
次から合流する予定の連れを待つために一旦外に出ようとすると、デイヴィッド・ビニーがウロウロしている。外の階段のところではトーンが音楽仲間らしい黒人2人と談笑中。暫くすると後ろから声を掛けられた。「あなた、私のCDが欲しいって言っていた人でしょ?」振り返るとロッテ・アンカーがいる。CDブックレットの写真では大柄な魔女風のイメージだが、実物は小柄で細身、髪も短く、年齢は行っているが可愛らしい感じの女性だ。「あのCD、新し過ぎてまだ店には置いていないはずだから」ええ、昨日、ダウンタウン・ミュージック・ギャラリーに行ったんですけど、売ってなかったんですよ。「あなたが来るって聞いていたから持って来たの」ホントに? ありがとう。おいくらですか?「え〜と、店頭に出るときは10ドルくらいだと思うけど」どうやら金を取る気はなかったようだが、いきなり只で貰うわけにもいかないので10ドル手渡す。ちょっと困ったような笑顔を浮かべながらも彼女が受け取ると、後ろから55バー店主のクエヴァ・ルッツが「あら、随分簡単に稼ぐじゃない?」と軽口を叩いた。
益子博之のニューヨーク放浪記 2005年9月編 vol.09
sleepwalking in downtown - part 9
10:30pm at Fat Cat, 75 Christopher Street, NYC
Mark Turner Trio
Mark Turner - tenor sax; unknown - bass; Rodney Green - drums.
($15 cover/no minimum)
マーク・ターナーは膝だけ動かして腰を上下させる不思議なアクション。次の音を探るようにロング・トーンを繰り返していたかと思うと、延々とメカニカルなフレーズを吹き続けたりと、CDで聴き慣れた通りの掴み所のない演奏だ。バップ・ナンバーの"Budo"をやったりもするのだが、特に演奏内容に変わりはない。バップ・フレーズにチャレンジするでもなく、まったく違うアプローチを試しているでもなく、意図不明。
ラスト・ナンバー途中で店を出ようとすると出口近くのソファに米沢恵実さんが。ベーシストの名を訪ねると彼女も知らないと言う。馴れないベースとロドニー・グリーンが探り合っているので、ターナーも調子が出ないのではないかと言っていた。
11:30pm at 55 Bar, 55 Christopher Street, NYC
Wayne Krantz Trio
Wayne Krantz - electric guitar; Anthony Jackson - electric contrabass guitar; Cliff Almond - drums.
($15 cover including 2 drink)
いつでも大混雑という情報がインプットされているのだが、セカンド・セットはそうでもない。前から2つ目のテーブルに陣取って開演を待つ。トイレから出ると待っていたのがマーク・アライアスだったので吃驚。カウンターの奥ではアンソニー・ジャクソンやクリフ・アーモンドの関係者らしき日本人女性2名が大はしゃぎで写真を撮ったりしている。
バンドのカラーが毎回大きく変わるわけでもないかと思っていたが、ウェイン・クランツは頻りに後ろを振り返り、アーモンドに何か怒鳴ったり、途中で演奏を止めたりしている。どうもコンビネーションが上手く行っていないようだ。聴いている限りでもやたらドカドカと騒がしいロック・ビートのアーモンドより、6月のダフニス・プリエトの演奏のほうがしなやかにバンドのグルーヴと一体化していたように思う。
だが、バンド・スタンド真ん前のカウンターに陣取った小太りのオッサンは一人で「ウェイン・クランツ、最高!」などと叫び続けている。堪りかねたクランツが店員に「こいつに酒を渡すな」と怒鳴るとしばらくは静かにしていたのだが、やがてブツブツと何か喋り始める。「Wayne Krantz is a No.1 guitarist in New York City!!」とか叫んだのを聞いた長身の店員が「アイツはニュー・ジャージーのどこそこの何丁目何番地に住んでるんだからニューヨーカーじゃないんだよ」と言うと今度は完全に黙り込んだ。
終演後バンド・スタンドでまたもやはしゃいでいる2名を余所に、クランツはマーク・アライアスともう一人のミュージシャンらしき男と3人で話し込んでいた。
益子博之のニューヨーク放浪記 2005年9月編 vol.08
sleepwalking in downtown - part 8
目が覚めると身体はぐったり疲れ切った感じだが、幸い風邪にはならずに済んだようだ。腹拵えにユニオン・スクエアのCity Bakeryに出かける。鮮度の悪いフルーツや甘いだけのタルトはダメだったが、ココのクロワッサンは香ばしくて絶品。
この日は天気がいいので、以前から行きたかったクイーンズのハズレにあるイサム・ノグチ庭園美術館に散歩がてら行くことに。N列車はクイーンズ地区に入るとすぐ地上に出て高架上を走る。NYの地下鉄はとにかく古いので騒がしいしガタガタと大きく揺れる。ブロードウェイ駅で下車すると(ブロードウェイは文字通り「広い道」程度の意味しかないので、マンハッタンにしか存在しないわけではないのだ)、駅が工事中でこれまた輪を掛けて騒々しい。
ブロードウェイをイースト・リヴァーに向かって10ブロックほど進む。この辺りはコロンビア系の移民が多いらしい。鄙びた地方都市の趣だ。道すがら出会した通学途中の中学生の集団はまさに人種の坩堝。やがて、こんなところに美術館があるのかと疑問が涌くような倉庫街に目的地はあった。こぢんまりした静かなスペースは庭のベンチでぼんやりするのに打って付け。だが、しばらくすると結構な数の見学者がひっきりなしにやってくる。日本の美術館のような順路設定も作品解説もなく、見る人の自由な見方で見てくれという展示方式。柄にもなくそこの写真集を購入し、のんびり駅まで戻る。
再び電車に乗って、終点のアストリア・ディトマス・ブールヴァード駅へ。この辺りはギリシャ系の移民が多いらしく、目的のTavern Kycladesもギリシャ・レストランだ。ギリシャ風サラダと蛸のグリルを頼むと、オリーヴ・オイルとガーリックのたっぷりかかったバゲットが付いてくる。やはり、NYの魚介類は新鮮で美味い。昨日の黒人の対応が悔しいので再びダウンタウン・ミュージック・ギャラリーへ行ってみる。この日の店番は若い白人。在庫を訪ねると丁寧に調べてくれたが、結局見つからなかった。出たばかりの新譜だから多分2〜3週間で入荷すると思うという。こういう対応の差があるところもアメリカ、NYなのだ。タワー・レコードを覗いてからホテルへ戻る。ヴァンガードの混雑が心配なので電話で予約を入れておいた。
晩飯はガイドブックで見たベルギー料理店でロブスターを食べようと地図を頼りにトライベッカへ。だが、地図に出ている辺りを往復しても目当ての店が見つからない。よくよく住所を見るとウェスト・ヴィレッジではないか。まったく当てにならないガイドブックだ。時間がないので前回T女史に教えて貰ったTrattoria Gigino'sへ向かう。ここはNYの日本人コミュニティで有名らしく、ひっきりなしに日本人のグループがやってくる。手頃な値段で美味いのでここに来ることが増えそうだ。流石にピザが食べきれないのでテイクアウトを頼むとオリーヴをたっぷり付けてくれるのも嬉しい。
9:00pm at Village Vanguard, 178 7th Avenue South, NYC
THE BAD PLUS
Ethan Iverson - piano; Reid Anderson - bass; David King - drums.
($20 cover/$10 minimum)
結局ギリギリの時間になってしまった。外に行列がないのでホッとしたのも束の間、中の席はほぼ埋まっていて、後ろのほうのバー・カウンター前のテーブルに案内される。この辺りの席で見るのは初めてだが、音を聴く分にはバランスが良さそうだ。連れにつつかれて右前方の席を見ると若いガール・フレンド(?)を連れたティム・バーンがいる。この遭遇率の高さは一体なに? そうこうするうちにバンド・メンバーが我々の前の通路を通ってバルコニーからステージへ。デイヴィッド・キングがバーンに気付いて一言挨拶を交わす。
出たばかりの新譜の曲が中心。しかし、なんとも地味な印象。去年、ブルー・ノート東京で見たときの大真面目に大ふざけをやる、あの爆裂感が皆無なのだ。新曲は変拍子から変拍子へと相当に複雑な構成のものか、シンプルなモチーフの反復が多いのだが、あくまで楽曲重視志向なのか、どこかこぢんまりとまとまった感が強い。カヴァーはビョーク "Human Behavior"。来日公演ではMCがほとんどなかったが、イーサン・アイヴァーソンが長いトークで何度も客席を爆笑させていたのも意外だった。こちらは何が可笑しいのかさっぱり判らずのチンプンカンプン状態だったが。ステージを降りたメンバーは壁側からまっすぐ楽屋に消えたため、声を掛けられず終い。何やら煮え切らない気分のままファット・キャットへ向かう。
益子博之のニューヨーク放浪記 2005年9月編 vol.07
sleepwalking in downtown - part 7
ユニオン・スクエアでは月・水・金に朝市が開催されている。色とりどりの野菜や果物が並ぶ露店を眺めているだけでも楽しいものだが、8時頃なのでまだ店も開き始めたばかり。空腹状態に我慢が利かなくなってきたので、チャイナ・タウンのMandarin Courtで飲茶を喰うことにする。ここは決して安いほうではないと思うが、朝から種類の豊富な飲茶を出す店は意外に少ないのだ。ところが、この日はいつまで経っても同じワゴンを繰り返し持って来るだけなので、昼飯を早めに取ることにして4皿+お粥で諦め。
一旦ホテルに戻り、一休みしてからノリータのキューバ料理店 Cafe Habana へ。名物の焼きトウモロコシにキューバ風サンドウィッチ、豆の煮物などを頼むが明らかに多過ぎだ。脹れた腹を抱えてこの日はここから別行動。連れはソーホーや五番街でお買い物だそうだが、こちらはCD漁り。まずはバワリーのダウンタウン・ミュージック・ギャラリーへ。件のアンカー/テイボーン/クリーヴァー "Triptych"(Leo Records)を探すが見当たらない。デイヴ・ダグラスの新譜などを摘んでレジの黒人のオッサンにこのCDはないかとプレス・リリースを見せるが、即座に「ノー」の返答。お前、在庫リストくらい調べろよ、と思うが取り付く島もない。諦めてユニヴァーシティ・プレイスのタワー・レコードでバッド・プラスの新譜 "Suspicious Activity?"(Columbia)を購入。
次は米沢恵実さんとブライアント・パークのノース・ウェスト・コーナーで待ち合わせ。若手ミュージシャンの動向や、山中千尋、上原ひろみといったバークリー同窓生の噂話、それから日本からのスカウトらしき話など、オフレコ・トーク満載で時間を忘れる。後から考えれば公園のカフェにでも入れば良かったとやや後悔。 気が付くと5時を回っているので、慌ててファット・キャットでのマーク・ターナーで会う約束をしてホテルに戻る。今日は昼寝できないなぁ。
席を確保するため、7:00にはトニックに到着。だが、またもや誰もいない。取り越し苦労だったか。だが、そこはビル・フリゼール、開場の7:30前には熱心なファンが三々五々やってくる。どうやらフリゼールと同年代と思しきオッサンたちが続々と集まり、アッという間に立ち見スペースも埋まってしまった。ほかのライヴとはまったく異なる客層に少々圧倒される。
8:00pm at Tonic, 107 Norfolk Street, NYC
Bill Frisell's UNSPEAKABLE ORCHESTRA with Hal Wilner
Bill Frisell; electric guitar, loops; Jenny Scheinman - violin; Eyvind Kang - viola; Hank Roberts - cello; Tony Scherr - bass, guitar; Kenny Wollesen - drums; Hal Wilner - turntables, samples
($36 cover including 1 drink)
セッティングのときからハル・ウィルナーがいろいろな曲をかけてリラックスしたムードを盛り上げている。ところが演奏が始まると、ジェニー・シェインマンとアイヴィン・カンの息がどうにも合わないらしく、互いの譜面を弓で差しては言い合っている。ハンク・ロバーツは我関せずと言った風のマイ・ペース。フリゼールはテーマ・ステートメント以外はほぼバッキングに徹してソロはストリングスに任せっきり。だが、時折繰り出すループやエフェクトが適度な刺激を持ち込んでいる。
曲間にもウィルナーの戯けたパフォーマンスが続いて客席を湧かせているが、こちらは全然知らない曲ばかりなので呆然とするほかない。本編のほうのレパートリーは"Unspeakable"には収録されていないカヴァー曲が多かった。ラストはマーヴィン・ゲイ"What's Going On?"。オッサンどもの熱狂とともにたっぷり1時間半に及んだファースト・セットは幕を閉じた。
だが、この熱狂の所為か会場のクーラーは異様な効かせ具合で、すっかり身体が冷え切ってしまった。ちょっと震えが来るぐらいだ。地下鉄の駅で隣の席だったオッサンに話し掛けられる。「ジェニー・シェインマンのミニ・スカートがセクシーで、そこにばかり目が行った」とか「ラストの"What's Going On?"が最高だった」とか興奮冷めやらない様子なので、こっちは寒くて堪らなかったと返すと、「どこが寒いって? 信じられない」と言う。あぁ、アメリカ人はどこまで鈍感なんだろう。
この後、ヴィレッジ・ヴァンガードのバッド・プラスとスモールズのマーカス・ストリックランドを予定していたのだが、ここで無理すると風邪をひきそうだ。ヴァンガードは予約もしたし、昨夜のリード・アンダーソンとの一件もある。だが、メイン・イベントが金曜日に控えているのだ。相当無理してやってきた今回のNY旅行、後半を無事に過ごすために泣く泣くホテルに帰ることにする。
初日にも行ったGam Mee Okでソロンタンとビビンパを頼み、付け合わせの青唐辛子とキムチを胃に流し込む。味もよくわからないし、口の中が痛いのだが、ひたすら流し込む。だが、なかなか震えが止まらず、身体も温まってこない。ホテルで風呂に入るとようやく身体が温まってきたが、意識も朦朧としてきた。朝まで一度も目が覚めなかったのはこの日だけだった。


