column / コラム
2008.12.19

益子博之のニューヨーク放浪記 2006年6月編 vol.16

exhausted in downtown - part 16

2006年7月1日(土)

5:00には目が覚めてしまった。6:30まで待ってフロントへ。白人と黒人の女二人は互いに仕事を押しつけ合っている。黒人のほうが根負けしてカードキーを受け取った。まったく態度が悪い。7:00過ぎにはニューアーク空港行きのバス停に着くが、いくら待ってもバスが来ない。いつもなら2〜30分に1本は来るのになぁ。隣にやってきた浅黒い小太りのあんちゃんも頻りに苛立っている。漸くやってきたと思ったバスはラテン系の団体の貸切でガックリ。8:00近くなって流石にこちらも心配になってきた。

さっきのあんちゃんに話しかけようとすると、向こうから一緒にタクらないかと言ってくる。「航空会社はどこだ?」コンティネンタル。「わぉ、同じだ、それじゃ行こうぜ」本当に"Maaaaan!"とか"Fuckin' ○○"とか、やたらと連発するヤツに初めて会った。「俺はこれまで3回、ここからバスに乗ったがいつも30分に1本は来てたぜ。あんた、コリアンか?」いや、日本人だ。「そうか、悪かったな。俺たちには区別が付かないんだ」それはお互い様だ。「日本に帰るのか? 俺は休暇でサン・フランシスコだ。そうそう、友達がこの前、日本に行ったぜ。トーキヨーとオーサカと...。二番目に大きい都市はどこだ?」大阪。「三番目は?」名古屋か、福岡かな?「ナゴーヤだ。それからナガーノにも行ったって」

「俺は寿司が好きだぜ。でも、NYよりサン・フランシスコのほうが旨い。大西洋より太平洋の魚のほうが良いに違いない」でも、寿司は高いよな。NYはなんでも高いけど。「トーキヨーのほうが高いって聞いたぜ。旅行者にとって物価の高い都市ランキングの1位はモスコウ、2位はソウル、3位がトーキヨーでNYは10位だ」でも、実感値としては東京の倍くらいする感じだけどな。「俺はイースト・ハーレムで働いてるが、確かにマンハッタンは高いと思うよ」僕の友達もみんな住んでいるのはブロンクスかブルックリンだ。

フリーウェイで空港行きの路線バスを追い越す。「こんなにノロけりゃ来ないはずだぜ。ワールド・カップは見たか?」日本は弱すぎだ。「優勝はブラジルだぜ、ブラジル!」彼はきっとブラジル系なのだろう。空港に入るとターミナルCの目前で渋滞に巻き込まれる。「畜生、一体どうなってるんだ!」混んでいるのは国内線のほうなので、国際線のほうで一緒に降りることにする。「実はフロアが違うだけだからな」バスなら一人17ドルのところが二人で60ドル。「畜生、えらく高くついちまったぜ。ありがとう。それじゃ元気でな!」

チェックインして出発ゲート前でのんびりしていると、もう一度顔写真と指紋を撮ってから出発カウンターで席の確認をしろというアナウンス。また、手続きが厳しくなったのか。受付の女性に尋ねると、セキュリティ上の問題というより、チェックイン後にパスポートやチケットを紛失する人が増えているためだという。あぁ、日本人の民度はどこまで下がるのか。それにしても妙に良い天気だなぁ。トラブルもあったが、いろいろな出会いがあったなぁ。ある意味、今までで一番旅らしい旅だったのかもしれない。

<おしまい>
2008.12.19

益子博之のニューヨーク放浪記 2006年6月編 vol.15

exhausted in downtown - part 15

ファースト・セットが終わると後ろのほうの席に米澤恵実さんが来ていたのでこちらに誘う。アンジェリカ・サンチェスが予想外の演奏をするので非常に面白く参考になると言う。トニーのフレージングにはビ・バップを勉強した形跡があるが、アンジーからはジャズの臭いがほとんど感じられないというのが彼女の見解。演奏が終わったら話をしてみたいと珍しいことを言う。



セカンド・セットはさらに激しい展開で、二晩連続で絶好調のトニーを目撃できた。それではアンジーに紹介するかな、となったところで後席を見ていた米澤さんが「誰かと話しているので話しかけられない」と言う。時間潰しにトイレに行こうとすると、バー・カウンターのところにジェフ・デイヴィスがいた。「あんた、何処にでも現れるんだな」



トイレの前では順番を待っていた白人男性に話しかけられる。「あんた、昨日も来てたよね?」ああ、昨日のは良くコントロールされた演奏だったけど、今日のは...「フリーだった」しかも激しい!「あんた、ヴィレッジ・ヴァンガードのポール・モーシャンは見たかい?」火曜日に見たよ。サックス2人、ギター3人、ベース2人の大所帯で...「それじゃ、あのステージはギュウギュウだな。サックスは誰だった?」マーク・ターナーとクリス・チーク。とても良かったよ。

戻ってくるとアンジーと話していたのはクリス・デイヴィスだった。なんだぁ、ということで米澤さんを紹介すると、もう一人そこにいた女性が「日本の方ですか? もしかしてアイヴィンが話していた人?」と訊いてくる。あぁ、多分そうです。一瞬、英語と日本語が交錯して一同爆笑。彼女はアメリカに来て16年、アリゾナに住んでいたときにアンジーと一緒にピアノを習って以来の友人だそうで、現在はブロードウェイの役者のレッスンのピアノ伴奏を仕事にしているという。「きっと今まで何度も同じギグで出会しているはずよね」向こうではピアニスト同士の会話が弾んでいる。米澤さんの一言で『ジャズ批評』誌に書いていたことがバレた。「トニーが持っていたあの雑誌ね。バックナンバーが手に入るなら、今度来るとき持ってきてくれない?」

一同と再会を約して店を出る。駅まで同道する間にNYの若手のCDを出しているレーベルについて紹介する。ミュージシャンは意外にこうした情報に疎いようだ。今後は積極的に自分の音楽をアウトプットしていく心境になっているらしい。見送ってから最後のギグに望む。


12:30am at Fat Cat, 75 Christofer Street, NYC
Jonathan Kreisberg Quintet
Will Vinson - alto sax; Gary Versace - piano; Jonathan Kreisberg - electric guitar; Johannes Weidenmueller - bass; Mark Ferber - drums.
($15 cover/no minimum)




典型的なポスト・バップのストレート・アヘッドな演奏。ジョナサン・クレイズバーグは去年見たときよりアクションが大きくなっていてノリノリ。これはこれで聴いていて気持ちが良い。腹が減ったのでBleecker Street Pizzeriaで厚手のピザを食べる。以前、沼田順さんと入った店だ。ここのピザもなかなかイケる。これで今回の旅行も終わりだ。あっという間だったな。まぁ、昼間はほとんど寝てたから仕方がないけど。風呂に入って、残金の計算、荷物の整理を済ませて少し眠る。


2008.12.19

益子博之のニューヨーク放浪記 2006年6月編 vol.14

exhausted in downtown - part 14

2006年6月30日(金)

腹が減って堪らないので6:00頃からガイドブックを頼りにアッパー・ウェスト・サイドやウェスト・ヴィレッジに行くが碌な店が開いていない。仕方がないのでチャイナタウンで7:30から開いているBig Wong Kingという店に入る。よくわからないままCantonese Lo-Meinというのを頼んだのだが、やってきたのは山盛りの焼きそば。これは失敗した。頑張って6割くらい食べたがギヴ・アップ。あぁ、汁そばにしておけば良かった。腹がキツいので少し散歩するが、眠くなってきたのでホテルに帰る。

昼はNYで一番パニーニが旨いというBread Tribecaへ。だが、温かいものが食べたいのでウサギのパッパルデッレとサラダをオーダー。サラダは美味かったが、パスタは妙に分厚くオリーヴオイルの味しかしない。この味で40ドル取られると流石にガックリ来る。今回の旅行で初めての快晴、しかも風が涼しく気持ちが良い。本来なら散歩でも楽しみたいところだが、またもや眠くなってきたので無理せずホテルへ。目が覚めると19:00近い。いつも完全には寝過ごさないのだから偉いよなぁと思いながら、ブルックリンへ急ぐ。

F列車のヨーク・ストリート駅で下車、人気のない倉庫街の雰囲気。左奥のビルの11階へ上がるとパーティ会場はこの奥、という案内がある。歩いていくとスーツを決めた黒人が「パーティに来たのか?」と訊いてきたので、ジャズのコンサートを見に来たんだけどと答えるとここで良いとのこと。イースト・リヴァーを見下ろすギャラリーにはテラスがあり、既に集まった2〜30人程の人々がそれぞれのグループで談笑している。だが、楽器類の影も形もなく、本当にここでギグがあるのか心配になってくる。展示されているアートはグロテスクなものが多くあまり感心しない。手持ち無沙汰なのでソファに座った。目前には延々とひたすらエログロな女装コンテストらしきヴィデオが映し出されている。エンド・ロールのスタッフの中にアンドルー・ディアンジェロの名前を見つけ、妙に納得。

20:00近くなってようやくアイヴィン・オプスヴィークが到着。「20:15くらいには始めると思うよ。ドリンクはフリーだからゆっくりしててよ」しばらくして揃ったメンバーに一人ひとり紹介される。このバンドのCDが欲しいと告げるとベン・ガーステインが取り出してきた。「今日の演奏を聴いてからにしたほうが良いんじゃないの?」とアイヴィンが軽口を叩く。すぐに言われた通りにしておけば良かったと後悔することになった。


8:00pm at Pochron Studios, 20 Jay Street, 11th Floor Suite 1100, Brooklyn
THE UP
Ben Gerstein - trombone; Jonathan Moritz - tenor sax; Eivind Opsvik - bass; John McLellan - drums.
(free with free drink)




シチュエーションがシチュエーションなので音楽をまともに聴いている人は極僅か。完全なフリー・フォームで、しかもリズミックな展開には決してならない類の音楽。座ってじっくり聴けばまた違うのかもしれないが、徐々にしんどくなってくる。昨夜のトニー・マラビーが良かっただけにこの日も見逃せない。20:40前には会場を後にする。外に出ると小雨が降ってきた。




9:00pm & 10:30pm at Cornelia Street Cafe, 29 Cornelia Street, NYC
Malaby/Sanchez/Rainey
Tony Malaby - tenor & soprano saxes; Angelica Sanchez - wurlitzer piano; Tom Rainey - drums.
($10 cover/1 drink minimum)




一口にフリー・フォームといってもバンドによって生み出される音楽はまったく違う。CDで聴き慣れている所為もあるのだろうが、やはり目の前で展開される生の演奏だからこそ細かなインタープレイが素直に耳に入ってくる。このバンドの面白いところはトム・レイニーの繰り出すリズム・フィギュアにアンジェリカ・サンチェスがストレートに反応しないことで、普通なら一緒になってリフを盛り上げたりするところを、白玉でコードを弾き続けたりするのだ。そこにトニー・マラビーが別のアプローチで絡んでいくので予断を許さない展開となる。


2008.12.19

益子博之のニューヨーク放浪記 2006年6月編 vol.13

exhausted in downtown - part 13

さて、いまや恒例となったウェイン・クランツ@55バー。いつもはセカンド・セットになると空いているので押っ取り刀でチャージを払うと列の最後尾に並べと言われる。20分くらい待っただろうか。中に入るとベースを抱えているのはサウスポーの太った白人で、ウェイン・クランツとジェームズ・ジナスの絡みを期待していたこちらとしては些か拍子抜け。混んではいるがバンド・スタンド脇のカウンターに陣取る。


11:30pm at 55 Bar, 55 Christopher Street, NYC
Wayne Krantz Trio
Wayne Krantz - electric guitar; Paul Socolow - electric bass; Keith Carlock - drums.
($15 cover including 2 drink)




いつも通りといえばいつも通りの演奏。積極的にクランツのラインに絡むアンソニー・ジャクソンとは違い、ポール・ソコロウはボトムをキープしているだけなので面白味に欠ける。キース・カーロックもかなりのデブだが、クリフ・アーモンドとは違って喧しくないし、付き合いが長い分コンビネーションは良かった。でも、次はもういいかな。終演後、隣の椅子に来たクランツに話しかけられるが、そんなに面白かったわけでもないので、良かったよとだけ言って店を後にした。




1:00am at Zinc Bar, 90 West Houston Street, NYC
Russell Gunn & ELEKTRIK BUTTERFLY
Russell Gunn - trumpet, effects; Theodros Avery - tenor sax; unknown - trumpet; unknown - keyboards; unknown - electric bass; unknown - drums; unknown - percussion.
($5 cover /2 drink minimum)




壁際の席に着いてしばらくすると、奥からベロベロに酔っぱらったジェフ・ワッツが白人女性2人に支えられながら外に出て行った。想像以上に小柄なラッセル・ガンもウロウロするばかりで頻りに外に出ようとしている。3日連続興業の最終セット、店内はある種お祭り騒ぎの状態で、彼もまともに演奏する気はないのだろう。リズム隊が"Bitches Brew"のリフを繰り返し始める。ようやく始めた演奏もテーマのあと少し吹くと楽器を置いて出て行ってしまった。16ビートのリフに乗って、テナーやペット、キーボードのソロが続く。



それからは、その場にいるミュージシャンたちが次はおまえがやれとばかりに入れ替わり立ち替わりバンド・スタンドに立つ始末。終いには10代の白人娘がベースを弾いていた。しかも、これが結構グルーヴィなので恐れ入った次第。ラッセル・ガンはもう一度だけ短いソロを吹くと自分の楽器を片付けてしまった。2時を過ぎていい加減飽きてきたので店を出る。ドア脇にテナーの黒人が立っていたので名前を尋ねる。「テオドロス・エイヴリーだ。あんた、ミュージシャンか?」いや。聴くだけさ。あんたの演奏、良かったぜ。


2008.12.19

益子博之のニューヨーク放浪記 2006年6月編 vol.12

exhausted in downtown - part 12

2006年6月29日(木)



新しい店を探すのが面倒なので、一昨日行ったBokyへ。店主は顔を覚えていたらしく妙に愛想が良い。Country Duck on RiceとSpecial Dumplings in Soupを頼むと「Good choice !」かなんか言っている。これも量が多かったが、すっかり胃に収まってしまう。腹ごなしにトライベッカ辺りまで散歩してからホテルに戻って寝る。気が付くと12:00を回っているので、慌てて身支度して地下鉄に飛び乗る。F列車のレキシントン・アヴェニュー駅を出るとすぐ擂り鉢状の広場があった。


12:30pm at Citigroup Center Plaza, 601 Lexington Avenue, NYC
Ingrid Jensen Quartet
Ingrid Jensen - trumpet, flugelhorn, effects; Geoffrey Keezer - piano, electronic piano; Matt Clohesy - bass; Jon Wikan - drums, cajon
(free)




平日の真っ昼間なので観客は比較的年齢層が高い。これはセント・ピーターズ教会が運営する"Jazz on the Plaza at the Citigroup Center"というシリーズで6〜8月の毎週木曜に行われている。この後はロン・ブレイク、テレル・スタフォード、スティーヴ・トゥーレ、アルトゥーロ・オファリルらの出演が予定されている。



イングリッド・ジェンセンは足下にエフェクト・ペダルを並べてはいるが目立った効果はディレイくらいで、寧ろミュートの使い方で音色変化をコントロールしている。フリューゲルの柔らかな響きが美しい。オリジナルやスタンダードでストレート・アヘッドな演奏。タイトにまとまったバンド・サウンドはひたすらスムーズで爽やか、真昼の屋外にぴったりマッチしている。少なくとも深夜のジャズ・クラブには似合わないものだが、薄口の音楽には薄口なりの魅力、微細な味わいが存在している。



ジョン・ウィーカンが前に出てきてカホンを叩き出す。「リズムがちゃんと取れたら手拍子をお願いします、できない人は止めてね」と笑わせるジェンセン。アメリカ人は総じてリズム感が悪いらしく、手を叩く人がいない。途中、明らかに外れたリズムで黒人の爺さんがやり出したので苦笑い。曲が終わってから自ら手拍子を打ってリズムを説明し、「今度やるときはちゃんと合わせてね」と愛嬌を振りまいていた。



腹が減らないのでそのままホイットニー・アメリカン・アート美術館へ。ここはあまり広くはないのだが、ゆったりした展示が良い。"Full House"という創立75周年記念展の最中で、アメリカのモダン・アートを概観できる。疲れが出てきたのでホテルに戻ってまたもや寝ることに。

18:00頃に起き出すと雷が鳴っている。晩飯を喰いにチャイナタウンに向かうが集中豪雨のようになってきた。あっという間に道路が川と化している。Great NY Noodle Townという店に飛び込み、ロースト・チキン入り雲呑麺と中国野菜をオーダー。結構な量だがこれもペロリ。雨の所為で続々と客が雪崩れ込んでくるが、店を出るともう雨足は弱まってきていた。


8:30pm & 10:00pm at Cornelia Street Cafe, 29 Cornelia Street, NYC
Mark Helias' OPEN LOOSE
Tony Malaby - tenor sax; Mark Helias - bass; Nasheet Waits - drums.
($10 cover/1 drink minimum)




細身のナシート・ウェイツはシャープでアタックの強い出音で、ブライアン・ブレイド・タイプのダイナミクスを強調するスタイル。やはりこのバンドにはトム・レイニーのほうがフィットしているように思うが、ウェイツもかなりの手練れであることは確かだ。CDでの予想通り、緻密に書き込まれた曲ばかりでかなり譜面を使っていたが、それとは感じさせないスムーズな演奏。とはいえ、ここぞというところでのトニー・マラビーの爆発ぶりが凄い。だが、勢いに任せて吹きまくるのではなく、あくまで知的にコントロールされており、演奏時間もコンパクトにまとまっている。



ここのところのダウンタウン系の新譜をチェックしていると全体的に演奏時間が短めになってきている。表現すべきことをできる限りコンパクトでキャッチーにしようという傾向が見られるのだ。2セットがあっという間に終わってしまった。個人的には今回のベスト・パフォーマンス(アラス・ノー・アクシズ2分間も棄てがたいが)。

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