column / コラム
2009.06.16

益子博之のニューヨーク放浪記 2008年6月編 vol.08

oversleeping in downtown - part 8

2008年6月27日(金)

いよいよ最終日。今日は朝から曇りで蒸し暑い。雨が降らなければ良いのだが。朝食は再三再四のBo Ky。午前中はそのままソーホーの西外れに向かい、会社へのお土産用に人気のチョコレート2ブランド、Jacques TorresとKee's Chocolateを購入。昼からはアッパー・イーストへ。クーパー=ヒューイット・デザイン美術館は展示がイマイチなのでショップのみ。ホイットニー美術館はバックミンスター・フラーの回顧展が圧倒的。お土産はちょっと足りないが、だいぶ疲れたので残りは空港でなんとかしよう。昼食はSlice the Perfect Foodというオーガニック・ピザの店で。



宿に戻ってひと寝入り。どうやら雨は降らずに済みそうだ。ふとMySpaceを開くとスコットから、コーネリア・ストリートに来るなら席を確保しておくが、というメッセージが入っていた。遅れるかもしれないのでよろしく、と返信しておく。


7:00pm at Rubin Museum of Art, 150 West 17th Street, NYC
Berne/Taborn Duo
Tim Berne - alto sax; Craig Taborn - piano.
($20 admission)


ルービン美術館はヒマラヤの仏教美術専門の美術館。これはJVCジャズ・フェスティヴァルの一環としてのプログラムだ。100人収容程度の小劇場は結構な入り。だが、演目が判っているのかどうか、最前列の僕の周りは婆さんばっかり。



その所為か、ティム・バーンは絶えずブレス漏れの聞こえるような抑制の効いた吹奏に徹し、クレイグ・テイボーンはアルペジオ中心で、格調の高さを演出しているような雰囲気。だが、徐々に演奏に没入してくると、バーンはフリーク・トーンも繰り出すし、テイボーンは強烈な打鍵力でピアノが動いてしまうほどの熱演ぶり。サイエンス・フリクションやハード・セルのレパートリーも含む既存の曲や新曲を繋ぎ合わせて3パートから成る組曲に仕立てている。例によって歌えないような跳躍の激しいメロディや、逆にロング・トーンの音程を移動させて行くだけのライン等が続く。



1パート目が終わったところで、後方からワーワーピーピーの歓声が。実は若いティム・バーン・ファンも結構来ていたのだ。1時間足らずで3パート完奏。すると、僕の周りの婆さん達も拍手喝采。僕の前の人なんか眠ってるのかと思ったのに、不思議だ。後方からスタッフらしき人が慌てて楽屋に飛び込んで行く。出て来たバーンが「兄貴の判断でもう1曲演ります」とコメント。ハード・セルの曲(タイトル忘れた)で締め括った。


9:00pm & 10:50pm at Cornelia Street Cafe, 29 Cornelia Street, NYC
Mark Helias' PROJECTILE
Ray Anderson - trombone; Ellery Eskelin - tenor sax; Mark Helias - bass; Tyshawn Sorey - drums.
($10 cover/$7 minimum per set)


ティム・バーンが意外に早く終わったので、思ったより早めに到着。最前列では本当に目の前に長身のレイ・アンダーソンがトロンボーンを抱えている。なんか老けたなぁ。スコットがトロンボーンが直撃するから耳栓をしろ、と紙ナプキンを投げて寄こす。アンサンブル以外は、ルバートで無伴奏ソロやデュオのパートが長く続くのが結構辛い。一方、イン・テンポになった途端、4人共猛烈なグルーヴを発するのが凄い。



CDを聴いている限りでは余り感心したことが無かったエラリー・エスケリンだが、生で聴くとなかなか、いや、かなり良い。タイション・ソーリーは巨体に似合わぬ繊細なプレイ(ブラシを振るだけの音やスネアを抱えて指で撫でる等)から、激しいが決して喧しくならないフォルテシモまで、ダイナミック・レンジの広い表現力が素晴らしい。楽曲はマーク・アライアスの初リーダー作から、オープン・ルースの曲、全くの新曲まで、幅広いレパートリーだった。



スコットと会うのも今回はこれが最後。席取りしてくれたり、いつもの気遣いに感謝を伝える。「来年もまた来るんだろ? 帰国したら必ずメール寄こせよ。」


12:00am at Fat Cat, 75 Christofer Street, NYC
Jon Irabagon's OUTRIGHT!
Russ Johnson - trumpet; Jon Irabagon - alto sax; Kris Davis - piano; Eivind Opsvik - bass; Jeff Davis - drums.
($3 cover/no minimum)


以前のファット・キャットにはウナギの寝床のような細長いライヴ専用スペースがあったのだが、消防法の規制とか何やらで壁を取り払い、ビリヤードや卓球用の場所と一体化した広いオープン・スペースになってしまった。喧しくて音楽を聴くような状態では全くない。

セカンド・セットまでまだ間があるらしい。クリス・デイヴィスがソファで蹲っているので眠っているのだろうと思い、一先ずトイレへ。戻って来ると起きているので隣に座ると、目にいっぱい涙を溜めている。「今日は何を聴いてきたの?」と普通に訊いて来るので、こちらも普通に応じる。やがて、ジェフがやってきて、こいつがしょうも無いんだ、みたいなことを言うのでその場を離れる。夫婦喧嘩でもしたのだろうか?



演奏のほうはいきなりビ・バップのブルースで始まり、8ビートのロックンロールに。かと思えばアルトが延々同じリフを吹く後方で、リズム陣が奔放に動く現代的なスタイルに。かと思えばフリー・フォーム、かと思えばニュー・オーリンズ風、と一体何をやりたいのかわからない、とっ散らかった印象の演奏だ。

ジェフにこんなことやるとは思わなかったと笑いながら言うと、「黙れ、アンタにそんなことを言われる筋合いは無い!」と冗談めかして応える。ジョン・イラバゴンに挨拶しつつ、彼はジュリアード大学ジャズ科出身なので、菊地成孔氏から依頼された、マイルスの同級生が今は教授、という噂話の真偽を尋ねてみる。そんな話は聞いたこと無いなぁ、と笑いながら答えてくれた。米澤恵実さんから聞いた通り、とても人懐っこい人柄だ。


1:00am at 55 Bar, 55 Christopher Street, NYC
MOUTIN REUNION QUARTET
Rick Margitza - tenor & soprano saxes; Pierre de Bethmann - rhodes piano; François Moutin - bass; Louis Moutin - drums.
($10 cover/2 drink minimum)


さて、もう午前1時。まだ、やっているだろうか。外から覗くと演奏は続いているので入り口の男に入って良いかと訊くと、そのまま入れと顎で指図。もうすぐ終わるのだろう。矢鱈とホットな演奏に観客もえらい盛り上がりぶりだ。エンディング・テーマに戻って2、3分で終了。こいつは証拠の写真を撮れただけで良しとしよう。リック・マーギッツァは初めて見たが、意外に小柄だった。



これで今回の旅も終わりだ。いつもながら、あっという間の1週間。いーぐるの掲示板に菊地成孔氏への報告を書き込み、夜が明けたらニューアーク空港へ向かうことにしよう。

<おしまい>
2009.06.16

益子博之のニューヨーク放浪記 2008年6月編 vol.07

oversleeping in downtown - part 7

2008年6月26日(木)

目が覚めると11時半を周っている。珍しく昼まで眠っていたんだな。窓外を見ると小雨。NYで一番美味いというピザ屋、Lombardi'sがすぐ近所なので折角だからと行ってみる。モッツァレラやリコッタの他、数種類のチーズを載せたホワイトを頼む。スモールでもサルバトーレ・クオモのLよりデカい感じ。炭焼き窯が売りらしいが、焼き過ぎでドゥが硬いのなんのって。ヴィレッジの安いピザ屋のほうがずっと旨いぜ。流石に食べきれないので、1/3を夜食用にテイクアウト。店を出ると雨はもう止んでいた。

今日はアッパー・イーストの美術館巡りの予定だったのだが、なんとなくダルいので横になる。時計を見ると4時半。あぁ、1日潰してしまった。明日は忙しくなるなぁ。最悪、土産物は空港か? などと考えつつ、気付くと6時半になっていた。いくらでも眠れるなぁ。ヤバいなぁ。慌てて部屋を飛び出す。あと一日か、長いようで短いなぁ、毎度のことながら。


7:00pm at Cleopatra's Needle, 2485 Broadway, NYC
Daisuke Abe Trio
Daisuke Abe - electric guitar; Scott Ritchie - bass; Yuji Nakamura - drums.
(no cover/$10 minimum)




ここは地中海料理のレストランで、ジャズはあくまでBGM的な扱いだ。NYではどうしても野菜が不足がちになるので、野菜中心のFalafel Platterを頼んだ。阿部大輔は関内、東京と日本で2度見ているのだが、NYでは初めて。アッパー・ウェストのレストランなのでスタンダード・チューンばかり。僕はこの人の作曲が好きなのだが、ギター自体は特に強い個性を感じさせるレベルには至っていない。挨拶したかったのだが、演奏が終わらないので次に向かう。


8:30pm at Arthur's Tavern, 57 Grove Street/7th Avenue, NYC
Kevin Tkacz Trio
Angelica Sanchez - upright piano; Kevin Tkacz - bass; Ikuo Takeuchi - drums.
($5 donation/2 drink minimum)




店に着くと既に2セット目が始まっていた。バンド・スタンド周りのカウンターに座ると、アンジェリカ・サンチェスがすぐに気付いて笑顔を見せる。オリジナルを演るのかと思っていたら、基本的にはスタンダード中心。アンジーがこういうのを演るのは初めて聴く。意外にバップ・フレーズも弾くのだが、この人のリズム感はとても変わっていて、ちょっと突っかえるようなフレージングなので、スウィングというかノリが出て来ない。タッチもあまり強くない。何曲か置きに挿入されるややアブストラクトなケヴィン・タックスのオリジナルになるとようやく本領発揮といった感じだ。終演後にアンジーに話しかける。こんな曲やるとは思っても見なかったよ。「たまにはこういう曲を演るのも楽しいものよ。」


10:50pm at Tea Lounge, 837 Union Street, Brooklyn
Sebastian Noelle's KOAN
Loren Stillman - alto sax; Sebastian Noelle - electric guitar, electronics; Thomas Kneeland - bass; Satoshi Takeishi - drums.
($5 donation/1 drink minimum)


開演予定の10時30分に着いたのだが、なかなか2セット目が始まらない。コーネリア・ストリート・カフェで僕を武石 聡と間違えた男の子が僕に気付いて手を挙げる。そのうち本人を捕まえて熱心に話を聞いていた。



いきなり東南アジア民謡風のサンプリングから始まったのでちょっと驚く。セバスティアン・ノエル唯一のリーダー作『Across the River』(Fresh Sound New Talent)とは雰囲気が全然違う。だが、演奏が進むとクールでモーダルな現代ジャズの相貌が顕わになる。武石はタムもバス・タムも無いシンプルなセット。曲によってはかなり激しく叩くのだが、全く喧しくならない。時折、ゴングや鈴を取り出してサウンドに変化をつける。ロレン・スティルマンは例によって顔を真っ赤にして身を捩りながらの熱演振りなのだが、音が細くて小さいため全然聞こえてこない。ノエルのギターは光るところもあるのだが、まだ個性不足かなぁ。

終演後、武石に話を聞こうと近づくと、スティルマンが「テッド・プアのパーティに来てなかったっけ?」と声を掛けてくる。パーティ? には行っていないけど...。「日本人の顔はみんな似たように見えるもんさ」と武石が助け舟を出してくれた。

このバンドは長いんですか?「いや、今日が初めて」彼らの演奏はどうですか?「良いですよ、みんな若いし上手いし。NYの仕事はお金にはならないけれど、違う音楽を演る度に凄く勉強になるから、色々な人達と演りたいんですよ」前にバーベスでベン・モンダーやティオ・ブレックマンと演ってるのを見たんですけど、全然違うセットでしたよね?「あぁ、音楽によってパーカッション・セットとドラム・セットを使い分けています。今は半々位かな。セバスティアンとはパーカッションで演ったこともありますよ。今日は何を聴いてきたんですか?」阿部大輔という若い日本人、レストランだからスタンダードをあくまでストレートに、それとアンジェリカ・サンチェス。「トニーの奥さんね。トニーとは演奏する機会がよくあるんですよ。彼は凄く面白い音楽を演っていますね。この前も一緒にツアーに行ったばかりで。ツアーはお金にはなるけど辛い(笑)。ヨーロッパだと飛行機で7時間くらいでしょ、それだけでもうダメ(笑)」僕も結構、歳が行っているんで辛いです、去年くらいから(笑)。

バンド名「公案」は禅の言葉で、修行者が悟りを開くための課題として与えられる問題、所謂「禅問答」を意味するものだそうだ。 冒頭のサンプリングもそれと関連があるのだろう。ノエルにも声を掛けたかったのだが、友人らしき人達と話し込んでいて終わりそうにないので諦める(帰国後メールすると僕が来ていたことには気付いていたそうだ)。

アダム・ロジャーズが55バーに出ているので見たいのだが、なかなか地下鉄が来ない。やっと来た電車もヴィレッジまでは行かない。なんとか辿り着いたものの1時10分、演奏は既に終わっていた。残念。
2009.06.16

益子博之のニューヨーク放浪記 2008年6月編 vol.06

oversleeping in downtown - part 6

2008年6月25日(水)

今日は朝から陽射しが強くて暑い。朝食はチャイナ・タウンのBig Wongでロースト・ダック入りのラーメン。バワリー沿いに出来たNew Museum (of Contemporary Art)が宿から2ブロック先なので、覗いてみる。箱を積み重ねた外観は面白いが、中は狭く展示も今ひとつ。その後、バワリー沿いに北上し、ダウンタウン・ミュージック・ギャラリーでCDを物色するも目覚しい物はなし。更に、ユニオン・スクエアまで上り、米澤恵実さんとランチ。夜は割と忙しいそうで、今年はどうやらライヴには付き合ってもらえないみたい。

日米ジャズ・シーンの現状とか、プーさんのこと、ECMのこと、バークリーの同窓生や若手の動向、最近の日本の事件や物価高について等、話は尽きない。ここのところ、ジャズ・マンのコミュニティの内向きの閉鎖性や甘えの構造、無頼派幻想等に対する違和感が強くなって来たそう。それって、座間裕子さんがジャズから離れた理由と同じような...。女性って、そういうところに敏感なのかなぁ。

いーぐるの掲示板で菊地成孔氏に尋ねられた「マイルス・デイヴィスのジュリアード在学時の同級生が今はジュリアードで教授をやっている」という噂話の真偽について尋ねると、「マイルスの同級生なら今は80歳以上になるが、そんな高齢の教授はジュリアードにはほとんどいない。ウィントン・マーサリスを指導したトランペット担当の教授は確かそのくらいの年齢だが、その人なのかどうかはわからない。フィリピン系のサックス奏者ジョン・イラバゴンはジュリアードの卒業生なので、彼なら知っているかも知れない」との答え。イラバゴンなら金曜にギグを見るので尋ねてみることにする。


7:30pm at Jazz Standard, 116 East 27th Street, NYC
Kendrick Scott ORACLE
John Ellis - tenor & soprano saxes; Aaron Parks – piano, rhodes piano; Mike Moreno - electric guitar; Vicente Archer - bass; Kendrick Scott – drums.
($20 cover/$10 minimum)


少し早めに行って、名物のスペアリブ、カンザス・シティ風味のハーフ・サイズを食べる。でも、焼き過ぎなのか、身が硬くて味は今ひとつ。しかも、ハーフでも食べ切れない物量。客席は4分の入りくらいでダフニス・プリエトのときよりやや少なめか。ケンドリック・スコットは矢鱈とジョークを飛ばして客席を笑わせているが、こっちは半分も意味がわからない。ピアノのエアロン・パークスがブルーノート・レコードと契約し、近々アルバムが出るそうだ。



演奏のほうはややクールでソフトでメロウな曲想に、ちょっと不似合いなくらい手数の多い叩きぶりだった。出音はとても安定しているけれど。世評は高くないが、贔屓のジョン・エリスは彼なりの味を出している。マイク・モレーノをちゃんと聴くのは初めてに近いが、フレージングもサウンド作りも数多の若手ギタリストの中では地味だが個性的で良いと思う。中盤2曲ほどエリス抜きで演奏。パークスがローズを弾き、メロウさが上積みされる。


10:00pm at Barbes, 376 9th Street, Brooklyn
Andrew D'Angelo Trio
Andrew D'Angelo - alto sax, bass clarinet; Chris Lightcap - bass; Gerald Cleaver - drums.
($10 cover/1 drink minimum)




珍しい組み合わせだと思ったのだが、よくよく考えるとこのメンツは今のクリス・ライトキャップ・ビッグマウスからトニー・マラビーとクレイグ・テイボーンを除いた編成だった。観客は20人くらいか。バーベスは非常に狭いのだが、やや空席あり状態。アンドルー・ディアンジェロの最新アルバム『Skadra Degis』(Skirl)からの曲が中心。ライトキャップ=クリーヴァー組はトレヴァー・ダン=ジム・ブラック組より重量感に勝る。アンドルーの音はCDよりずっと太くてパワフルだ。観客の声援に押されて予定に2曲追加し、1時間余りで終了。各メンバーに声を掛ける。



ジェラルド・クリーヴァー。昨夜も今夜も良かったよ。ところで、アンクル・ジューンのCDはどうなっているの?「間違いなくスタジオ録音することで決定済み。09年には出すつもりで準備中だ。」

アンドルー・ディアンジェロ。金曜の夜にスカンディネイヴィア・ハウスに行ったんだ。「道理で見覚えがあると思った。ところで、そのTシャツ、良いねぇ」あぁ、ニュー・ミュージアムで買ったヤツ。僕も少しばかり寄付をしたので、復活した姿を見られて安心したよ。「もうこうして演奏も出来る。でも、すぐに物凄く疲れてしまうんだ」ダウトミュージックの沼田順さんは友人だよ。「本当? ひょっとして彼のビジネス関係者?」いや、只の友人さ。「そうか。よろしく伝えておいてくれ。」

クリス・ライトキャップ。「なんだか君は顔馴染みのように感じるよ。何処で会ったんだっけ?」何年か前にスモールズで。「あぁ、JDアレンと演ったときか」そうそう。レコーディングはしないの?「10月にする予定なんだ」それは楽しみだ。

帰ろうとすると、バー・カウンターで飲んでいるトム・レイニーと眼が合った。でも、彼にはサインを貰っただけで、ちゃんと話したことはないんだよなぁ。余裕があれば55バーでマイク・スターンを見る予定だったのだが、どうせ代わり映えしないし、まだ2日残っているので大事をとって真っ直ぐ帰ることにした。
2009.06.16

益子博之のニューヨーク放浪記 2008年6月編 vol.05

oversleeping in downtown - part 5

2008年6月24日(火)

またもやBo Kyで朝飯を済ませた後、ちょっと横になるつもりが、気が付くと4時半頃。朦朧としてとても起きられないのでそのままゴロゴロしていたが、ふと時計を見ると6時を周っているので、いい加減起きなければと身支度を始める。相当疲れが溜まっているらしい。外に出ると風が強く、涼しいくらいの陽気だ。結局、今日も全く地下鉄に乗らなかった。宿のロケーションが良過ぎて、ミッドタウンやブルックリンに行かない限りは使わずに済むのだ。初日に1週間分のメトロカードを買ってしまったのが悔やまれる。


7:15pm at Cachaça, 8th Street/McDougal Street, NYC
Fernando Huergo Quintet
Yulia Musayelyan - flute; Andrew Rathbun - tenor & soprano saxes; Jason Lindner - piano; Fernando Huergo - electric bass; Franco Pinna - drums.
($15 cover/$10 minimum)


7時丁度に着くとまだ準備中。ようやく始まったのは7時15分頃。観客はまたもや10人足らず。アルゼンチン出身のフェルナンド・ウェールゴ、出自そのままにタンゴやミロンガをモチーフとした音数の多い複雑なメロディの曲が続く。だが、ソロになると普通にコード進行に沿ったアドリブという展開になってしまうので、昨夜のビニーと同様、テーマとソロが分断されている印象を受けてしまう。



神経質にリードを取っ換え引っ換えしているアンドルー・ラスバンだが、演奏のほうはあまり大したことない。これまでフレッシュ・サウンド等のCDで聴いた限りでは硬い音色だと思っていたのだが、生だと意外にソフトだし。ロシア人の女性フルート奏者は地味でよくわからなかった。一方、ジェイソン・リンドナーがブロック・コードを中心にしたソロで熱量を上げていく。彼はこの複雑な曲を今日、初見で演奏しているという。流石だ。


10:00pm at Nublu, 62 Avenue C, NYC
Kornstad/Opsvik
Håkon Kornstad - tenor sax, flutonette; Eivind Opsvik - bass; Gerald Cleaver - drums.
($10 cover/1 drink minimum)


かなり早めに店に着くとジェラルド・クリーヴァーがドラムをセッティング中。しばらくするとホーコン・コルンスタがやってきたので、去年ピットインでソロ演奏を見たとか立ち話をしていると、アイヴィン・オプスヴィークが若い女性と一緒に入ってくる。最新アルバム『Overseas III』(Loyal Label)のジャケット写真を撮ったのが彼女なんだ、と紹介してくれる。全員の準備が整うと、一緒に話そうとアイヴィンが誘ってくれたのだが、こちらは片言だし、DJプレイが五月蝿くて話がよく聞き取れないし、往生した。クリーヴァーは、場所はわからないけど以前会ったことは覚えている、と言ってくれたのが嬉しい。



ヌーブルーの室内はかなり暗いので、フラッシュ撮影の許可を請う。演奏が始まるとアイヴィンの彼女がフラッシュをガンガン焚いて撮り始めたので心配無用だったようだ。そのうちどこかのTVクルーが撮影を始めた。アップ・テンポの16ビートが中心。徐々に演奏が熱を帯び出す。ベース・ソロを経て、静かなパートではフルートにクラリネットのマウスピースを取り付けたヤツ(フルートネットと呼んでいるようだ)に持ち替える。アイヴィンはアルコ。ドラム・ソロを挟んで再びテナーを掴むと、例の強いタンギングを使いながら更にブロウに力が篭る。あっという間に1時間弱のセットが終了。すべて楽譜のない集団即興だったが、こいつはカッコ良かったわ。



ステージを降りるなり近づいてきたホーコンに良かったと声を掛けると、リハも無しのぶっつけ本番だったらしく、「いやぁ、本当に凄えドラマーだよ!」と興奮冷めやらぬ様子だった。金曜にまた会おうとアイヴィンに声を掛けて店を出る。外で待っていた少年に「ホーコン・コルンスタはまだやるの?」と尋ねられたので、もう終わっちゃったよ、と答えると恨めしそうな顔を見せた。


11:30pm at 55 Bar, 55 Christopher Street, NYC
Tim Miller Trio
Tim Miller - electric guitar; Joshua Davis - bass; Ted Poor - drums.
($10 cover/2 drink minimum)




このギグはドラムのテッド・プア目当てで行ったのだが、リーダーのギターもなかなかどうして。大昔のパット・メシーニーや初期のベン・モンダーを思わせるハーモニー処理で、アルペジオ中心にソロを展開。だが、モンダーほどの流麗さはない。一方、クールな肌触りの楽曲群は嫌いなタイプではない。渋谷で見た3人のギタリスト(ギラド・ヘクセルマン、デイヴィ・ムーニー、ピーター・マッツァ)なんかよりよっぽど個性的なので、こういう人にこそもっと陽が当たるべきだ、などと思っていたら、この人、どうやらバークリーの先生らしい。恐れ入りました。それならもっとピッキングの練習しないと...。

テッド・プアはこういうタイプの音楽だと只のパワフルなドラマーに止まってしまっていて勿体無かった。もっと違う音楽性のバンドで聴きたいものだ。クォン・ヴーか、ベン・モンダーのバンドで聴きたいのだがチャンスがなかなか巡って来ない。ちょっと気になったので後でじっくり聴いてみようと最新作のCDを購入。ドラマーは昨年亡くなった鳥山健明だった。ティムは、タケのベスト・プレイが録れている、と故人を偲ぶような表情で残念そうに語ってくれた。
2009.06.16

益子博之のニューヨーク放浪記 2008年6月編 vol.04

oversleeping in downtown - part 4

2008年6月23日(月)

この日の朝食もBoky。金曜のティム・バーンのチケットを確保すべく、チェルシーにあるルービン・ミュージアムへ。昼食はミッドタウンに移動し、高級イタリア料理店のテイクアウト・ショップ、Frescoでピザ・マルゲリータを食べるが、ちょっと物足りないので、近くのEurope Grill & Cafeでサラダを注文。不在中に迷惑をかけている会社方面の主要なおじさん3名にお土産を買っていかねばならないので、物色がてらMoMAへ。しかし、今年の展示は低調だなぁ。見馴れてしまったというのもあるが、インスタレーション系のプレゼンテーションは日本の美術館のほうがいまや余程上手いような気がする。ショップのほうの品揃えも代わり映えしないので断念。どうしようかなぁ? こいつが今一番の悩みの種。


7:30pm at Bar 4, 444 7th Avenue, Park Slope, Brooklyn
Jeff Davis Band
Kirk Knuffke - trumpet; Tony Barba - tenor & soprano saxes, clarinet; Kris Davis - upright piano; Jonathan Goldberger - electric guitar; Eivind Opsvik - bass; Jeff Davis - drums.
(no cover/1 drink minimum)


1年ぶりの再会をとても喜んでくれたジェフ&クリスのデイヴィス夫妻。例によってクリスは僕の予定表を見たがり、色々感心している。ヴィレッジ・ヴァンガードのフレッド・ハーシュがキャンセルになったことを伝えるととても心配していた。僕は知らなかったのだが、丁度昼前に米澤恵実さんと電話で話したときに、彼が随分長いことAIDSと戦っていることを聞いたばかりだったのだ。NYのミュージシャンには周知の事実らしい。



さて、店のほうだが、観客は身内を中心に10人足らず。厳しい現実だ。初めて聴くジェフ・デイヴィス・バンド、かなり綿密に楽曲が構成されているらしく、リズム・フィギュアやテンポが目紛しく変わる。だが、メロディらしいメロディも無く、集団即興パートが多いうえ、サウンドに色彩感がないので、ちょっと古めのフリーのように聞こえてしまう。ギタリストはソロを取ると初期のラリー・コリエル風、あとはノイズ、みたいな感じだし。 強いて言うとテナーのトニー・バーバ(名前は間抜けだが)がダークな良い音色をしていた。

複数のタイム感が同時進行するのは最早お馴染み。執拗にリフを弾く場面の多かったクリスだが、ソロは意外にメロディックな展開で、アップライトなのに透明感のあるサウンドを叩き出すタッチは見事だった。近々このバンドでレコーディングするそうで、レーベルはまたもやクリーン・フィード。いまやクリーン・フィードとサニーサイドがかつてのフレッシュ・サウンドのお株を奪いつつあるような気がする。


8:30pm at Tea Lounge, 837 Union Street, Brooklyn
Alexis Cuadrado's PUZZLES QUARTET
Loren Stillman - alto sax; Brad Shepik - electric guitar; Alexis Cuadrado - bass; unknown - drums.
($5 donation/1 drink minimum)




ここでも下手に地下鉄に乗るより、歩いたほうが早い。セヴンス・アヴェニューを早足で北上する。アレクシス・クァドラードがスペイン出身だということがどこまで関係あるのか判らないが、何とも軽いフュージョン・タッチの明るい曲想が続く。他のメンバーの出す音も一様に軽いので、全体的に何となくしょぼい雰囲気が漂う。これは全部聴くまでもないか。ライヴ中心の店でもないので、まともに聴いている客は少ない。サラダで腹拵えが済んだら、それなりに時間が掛かるのですぐにグリニッチ・ヴィレッジに向かうことにする。


10:20pm at Cachaça, 8th Street/McDougal Street, NYC
David Binney Big Band
Brad Mason/David Smith/Jonathan Finlayson/David Weiss/Ambrose Akinmusire - trumpets; Alan Ferber/Corey King/Andy Hunter/Elliot Mason - trombones; Max Seigel - bass trombone; David Binney/Ben Van Gelder/Lars Dietrich - alto saxes; Samir Zarif/Jason Rigby - tenor saxes; Dave Richards - baritone sax; Nir Felder - electric guitar; John Escreet - piano; Zack Lober - bass; Jordan Perlson - drums.
($15 cover/$10 minimum)




10時丁度に着いたのだが、まだメンバーが揃わない状態。マット・ブルワーとマイケル・ロドリゲスが店内をうろうろしている。始まったのは10時20分頃。ホーン陣はなかなか豪華だが、リズム隊は無名の若手。とはいえ白人のドラマーはかなりの手練れと見た。アンサンブルのほうも結構意欲的で、マリア・シュナイダーの成功以来、大編成のバンドが活況を呈している様子が窺われる。ギジェルモ・クレインの新譜が良かったもんなぁ。だが、ソロになるとバック・リフは皆無で、アンサンブル・パートとソロ・パートが分断されている印象なのが残念。練習宜しく、皆かなり長めのソロを取っていた。お客のほうは開演時に10人余り(当然バンドより少ない)、セット終了時でも20人くらいしかいなかった。


12:00am at 55 Bar, 55 Christopher Street, NYC
Donny McCaslin Quartet
Donny McCaslin - tenor sax; Ben Monder - electric guitar; Boris Kozlov - bass; Adam Cruz - drums.
($10 cover/2 drink minimum)




完全にノリ一発のちょいラテン風味のジャズ・ロック。セカンド・セット、8分の入りの客はドニー・マキャズリンが一本調子に吹きまくるだけでも、モノ凄い盛り上がりようだ。ベン・モンダーが独りで異なるムードを醸し出している。とはいえ、トニー・マラビー相手とは違うので、盛り上げるところはちゃんと盛り上げるツボは心得ていて、ミディアム・スローのロッカバラードではコード・ソロで、アップ・テンポの16ビートでは超高速パッセージの連続、エンディング前のブレイクからセカンド・ライン風のリフを弾き出す等、豊富な引き出しで楽しませてくれた。12時前に始まったセットが終わったのは1時15分頃。スモールズはまだやっているかなぁ?


1:00am at Smalls, 183 West 10th Street, NYC
Ari Hoenig's PUNK BOP
Will Vinson - alto sax; Gilad Hekselman - electric guitar; Orlando LeFleming - bass; Ari Hoenig - drums.
($20 cover including 1 drink)




入り口の脇にミッチ・ボーデンの姿はないが中から音は聞こえてくる。終わりが近いのだろう、誰にもチャージを要求されない。ふと横を見るとカウンターにジョシュア・レッドマンがいる。結構マメにライヴに足を運んでいるんだなぁ。ステージに目をやるとドラム・ブレイクでアリ・ホーニグが叩き捲くっている。また、これはこれで観客は盛り上がるわけだ。矢鱈と凝ったリズム・アレンジの施されたジャイアント・ステップスだったのだが、こんなに弄くり回さなくてもいいのに。終演後、ギラド・へクセルマンにこの前(6月1日)渋谷で会ったよね、と声を掛けて帰途に着いた。
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