live review / ライブレビュー
2009.07.21
市野元彦 Time Flows Quartet

2009年7月18日(土)20:00 国立 ノー・トランクス
市野元彦(eg)是安則克(b) 外山 明(ds) 土井徳浩(cl)

市野の役割はあたかも優秀な美術館の学芸員。
広がり、空間の表現が彼らの主たるモチーフだ

 7月18日、益子さん、宮坂さんと国立の「ノー・トランクス」に市野元彦のライヴを見に行く。経営者の村上さんとはずいぶん昔『ジャズ解体新書』(宝島社)で対談をお願いしたこともあり、いつかはお店に行かねばと思っていたが、何せ国立は少々遠く、なかなか足が向かなかった。そこに注目の市野元彦が出るというので、これは好機とばかり3人連れ立って出かけたというわけである。

 市野の新譜はcom-postでもレビューしたが、そのときは
「このアルバムが日本的でないことをどう評価すべきなのだろう。私の個人的第一関門(エラそうな言い方だ)はOKと言うことだ。つまりネタが見えちゃうからどうの、とか、湿気っぽいからこうの、という綾はつけない。グローバル・スタンダード(冗談です)で聴ける。その一方で、ブラインドで聴いたら近頃のニューヨーク派(そんなものは無いとしても)的サウンド、テイストであることも確かで、じゃあオリジナリティはどうよ、ってところが今後のポイントだろう。」
と、好意的ながらも最終判断は留保している。

 で、その「オリジナリティ」確認が今日の目的だが、結論から言えば、「彼らは、今もっとも新しい音楽をやっているミュージシャンたち」であることが良くわかった。砕いて言えば、留保なしで好きになった。

 理由は、明らかに「今まで聴いたことのない音」であったからだ。ちょっと嫌味な言い方だが、40年以上職業的にジャズに関わっていると、一通りのジャズは耳にしている。だから、どうしても「どこかで聴いたよな」ってのは、「オリジナリティの欠如」あるいは、「古いよね」という判断に繋がりがちなのである。

 具体的に言えば、以前『ジャズ批評』で「日本の若手女性ピアニストたち」を固め打ちで聴いたとき、一部のミュージシャンに否定的だったのは、新奇さを狙うあまりあざとかったり、ネタ元が透けて見えるからだった。これは「オリジナリティの欠如」の実例。また、つい最近聴いたばかりのルイ・スクラヴィスと高瀬アキのライヴも、演奏自体は悪くなかったが「聴いたことあるよなあ」という感慨を払拭できなかった。まあ、彼らにとっては昔からやっていることを誠実に繰り返しているのだろうけれど、正直21世紀の空気感というか、現代のリアルな生活空間を感じさせる音楽とは私には思えなかったのである。要するに“伝統的アヴァン”という奴ですね。

 そうした中で、市野たちの音楽は明らかに前例がなく、かつ好ましい。具体的に言えば、自由度が高いのに、表現したいもののコアが明確なのだ。前例がない音楽を説明するために少々突飛なたとえになるけれど、リーダー市野の役割はあたかも優秀な美術館の学芸員のごとく展覧会場を整備する。それも通り一遍の展観設定ではなく、館内はもちろん庭だって使っていいよとばかり、作家(サイドマン)たちに大きな自由を与えるのだ。(美術館は、そうだなあ、原美術館かな)

 そこで展観されるのはもちろん伝統的額縁絵画ではなく、むしろインスタレーション的なものだろう。広がり、空間の表現が彼らの主たるモチーフだ。当然作家でもある市野学芸員は自らのギターで会場案内をしつつ、適切な場所に是安のベース、外山のドラムスを配置し、そして絶妙のタイミングで土井のクラリネット(この「古い楽器」から今の音を出している土井の存在は大きい)にスポットを当てるのだ。

 もう少し音楽に即した説明をするならば、彼らの音楽は非常に繊細なのに神経質なところがなく、聴き疲れしない。自由なのに、一昔前の常套的フリーのように、表現したいものが不明確になることはない。あざとさを感じさせずに前例のない音楽を演奏できるということは、要するにセンスがいいということだ。ようやく日本からも「日本の」という余分な限定抜きで新しいジャズが生まれたようだ。

 ただ、彼らの音楽の魅力である、「自由な空間におけるミュージシャンの相互作用」を聴き取るには、やはりライヴが好ましく、以前聴いたアルバムでは、そうした「気配」が伝わりにくかったのが「判断留保」に繋がったのかもしれない。まあ、演奏の後で市野さんから直接話を聞いたところ「ツアーをやってからだいぶ変わってきている」ということだから、「アルバム」の時点から進歩があったのかもしれない。

 ともあれ、彼らは今後どんどん日本のジャズシーンを良い方向(過去スタイルの繰り返しや常套的フリーにはもう満腹です)に変えてゆく、台風の目玉的チームとなって行くことだろう。
(後藤雅洋)

市野元彦<http://www.motohikoichino.com/
国立 ノー・トランクス<http://notrunks.jp/

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