キャッチーな曲、安定感があるベース。間違いなく才人だ。
だが、なにか邪悪なものが彼の体内から溢れて壁を作る
本名リチャード・シムズ(Richard Simms)。もともとはベース奏者、シンガーだったが、80年代半ばからウィキッド・ウィッチと名乗り、ワシントンDCのスタジオで宅録を重ねるようになった。本CDは78年録音のパフォーマンス(Paradiagmというジャズ・ロック・バンド。演奏力高し)から85年のセッションまでを収めている。曲もキャッチーだし、ベースも安定感がある。間違いなく才人だ。が、どこかズレている。売り出し方によってはラリー・グレアムやブーツィ・コリンズの域に達するスターになれた可能性だってあったかもしれないのに、ことあるごとになにか邪悪なものが彼の体内から溢れて壁を作り、そのため大衆性を得られずに現在に至っている、という感じである。その壁を本能的に察知できるリスナーだけがウィキッド・ウィッチの表現に入り込めるのかもしれない。40分少々の収録時間なので一気に聴いてほしいのだが、目玉は(6)だろうか。エコーを思いっきりかけながらウィキッド・ウィッチはシャウトし、のたうちまわる。リック・ジェームズになったような気分なのかもしれない。後ろではやはり彼の手によるスラッピング・ベース、ヴォコーダーを通したコーラスが火を噴く。たしかにダンサブルだ。ファンキーだ。ディスコ狙いなのかもしれない。でもどこかズレている。ミキシングも異様。この変格エレクトロ・ファンクで、どう踊れというのか。
(1)のリミックスとされる(7)もおもしろい。というか、どこがリミックスなのかわからないほど原曲の面影がない。酔っ払っているようなギターの刻みと打ち込みビートの妙な交わり具合に接して、僕がとっさに思い出したのはジャマラディーン・タクマ『ルネッサンス・マン』に入っているタイトル曲なのだが、それでもタクマは瞬間風速的にではあるが人気者になった。ウィキッド・ウィッチは、やっぱり不遇だ。



