良い演奏である。勢いもある。
しかし、これが“今の気分か”と言われると心もとない。
何の前情報も無く聴いてみる。ウーン、80年代エンヤ盤あたりの雰囲気。つまり、ケレン味無くストレートな好演だが、アメリカ・ジャズとは一味違った気分とでも言おうか。当時アメリカのジャズシーンはウイントン・マルサリスにしろ、その対極にいたジョン・ゾーンにしろ、いわゆるジャズに対する「メタ視線」みたいなものを感じさせたが、ヨーロッパ系のレーベルはECMもenjaもわが道を行く風情で、あまりヤヤこしい屈折感は感じなかったように思う。もっとも、ヨーロッパ・ジャズは最初から屈折しているという見方も出来なくはないのだが、、、「ケレン味なくストレート」ということは、「メタ」ではなく「ベタ」にジャズ的価値観を信奉しているが故の力強さと言えるだろう、まるで60年代の新人たちのように、まだ“モダン”を信じているのだ。トラック2など、さりげなく始まり次第に高揚し、最後に大団円、大盛り上がり大会に突入するところなぞ、まさに「ジャズ」だ。大変にわかりやすい。
ところで、改めてデータを見て、ナルホドと思った。「The Art Of No Return」 のことは何も知らないので、あるいは間違っているかもしれないが、そこはクロスレビュー、お題を出してくれた須藤さんの正確な情報を参照してもらうとして、オスロ録音、そしてライナーに散見される文字面から想像すれば、北欧系か。とりあえず「ヨーロッパ・ジャズではなかろうか」という見立ては、半分正解。
しかし仮に北欧系だとすれば、オスロ録音が名物のECMで、enjaではない。単に「雰囲気」のたとえ話だからどーでもよいのだが、この演奏の“熱さ”はクールが売り物のアイヒャーECMではなくて、ヨーロッパ人にも関わらず“熱演好み”のホルスト・ウエーヴァーっぽいなあ、と感じてしまったのだから、やはりエンヤなのだ。(言うまでも無いが本作のレーベルは違う)
さて、そこで問題なのが録音年だ。2009年、バリバリの新録なのである。もちろんクロスレビューなのだから新録新譜が前提だろうが、前回のクロスレビューで取り上げたキースの例(ずいぶん前の録音だった)もあるし、、、などと思いをめぐらせていたのだが、最新録音だとすれば、これはまた別の見方が出てこようと言うものだ。
例えば、つい先日益子編集長が講演してくれた“現代”N.Y.ダウンタウン・シーンの雰囲気とはエライ違いなのである。「メタ視線」と裁断することが適切かどうかはさておくとして、ある種の「苦難の体験」あるいは「シンプルさへの戸惑い、懐疑」(それを単純に9.11の経験と言って良いのかどうか、我ら日本人には難しいところなのだが、、、)とでもいえるような経路を経た上での“内省的気分”が益子さんのかけるアルバムの通奏低音だとすれば、須藤さんの挙げたこのアルバムは、さながら“ベルリンの壁の崩壊”も経験したのかどうか危ぶまれる別天地、ジャズユートピアなのである。
良い演奏である。勢いもある。しかし、これが“今の気分か”と言われると心もとない。それこそ“80年代ヨーロッパ隠れ名盤”的、熱演なのだった。
The Core on Disk Union



