SP盤からではなく金属原盤からのリマスター。
生々しい音がスクラッチ・ノイズなしに味わえる。
こういうCDを待っていた。歌手・古川ロッパを満喫できるコンピレーション・アルバムだ。ロッパときいて、ぼくが真っ先に思い浮かぶのは「古川ロッパ昭和日記」という大著である。戦前から戦後までほぼ毎日のように所感(主に食事に関して)を綴っていたものの書籍化なのだが、それを読むと、戦後まもなく、日本人民の99%がロクなものを食っていなかったであろう時代にロッパは旨いものをたらふく食い、酒を飲んでいたこともわかる。戦後のロッパは落ち目になったというのが定説だが、それでもなお、健啖を発揮するに足る金回りはあったわけだ。ロッパは生涯に約100枚ものSP盤をリリースしているので、ここに入っているのはその約2割ということになる。17曲目までが戦前〜戦中、18曲目以降が戦後のものだ。音質も思いのほかよく、とくにビクターへの録音はSP盤からではなく金属原盤からのリマスターであるのがすごい。「ビクターの工場は空襲で焼けた」といわれているだけに、金属原盤が残っていたとは驚きだ。モノラルなのに、ドラムスが後方にいて、ブラスがその前にいて、さらにその前にコントラバスや弦楽器がいて、さらにその前にロッパがいる・・・・というような図が浮かんできそうなほど生々しい音が、ほぼスクラッチ・ノイズなしに味わえる。
また、歌詞の中には「銀座通れば 柳が招く メリーランドよ ジャズの街」、「ネオンサインが真赤に燃えて ジャズのレコード小唄が廻る」、「ジャズのステップ 知ったかぶりに 知らぬ顔して 足をふむ」といったフレーズもあり、最初に歌詞にジャズという単語が登場したといわれる「東京行進曲」(1928年)から約10年を経た1930年代半ばの日本でも、ジャズが依然として最もハイカラな西洋文化(ダンス・ミュージック)として捉えられていたことをうかがうこともできる。
ライナーノーツは本作を企画された石川茂樹氏、71年生まれの中野正昭氏(同年代のライターとして敬意を表する)、そして巨匠・瀬川昌久氏の3名が執筆。瀬川さんはロッパ、エノケン、金語楼、伴淳などの舞台を見ておられるとのこと。チャーリー・パーカー、バド・パウエル、クリフォード・ブラウンのライヴを体験したというだけでも羨望ものなのに、生ロッパや生エノケンもご覧になっているとは・・・、改めて、おみそれしました、である。



